船旅

 モンフォール王国は、ドリスタン王国と地続きで移動できるが、地形の関係で場所によっては船を使った方が早く着く。リュシアンの実家、オービニュ伯爵領には船旅が近道であった。


「ふぁー、海だ。俺、船って初めてだよ」

「あんまりのり出したら危ないよ」


 エドガーがどんどん離れていく岸を眺めて、船縁から身体を伸ばすようにして顔を突き出している。リュシアンのため息交じりのお小言もどこ吹く風だ。いつものようにどっちが年上かわからないようなやり取りをしながら、約丸一日半の船の旅へと出航した。

 王都へ直接行くなら、馬車で行った方が近いことは近いが、船の速度の方が早いので時間的には大した差はない。すっかりリュシアンの家に立ち寄る気満々のエドガーは、こうして一緒に船の旅を楽しんでいるのだ。


「ちょ、ちょっと、チョビあんまりモゾモゾ動かないで」


 船に乗ってからというもの、ずっと落ち着きなく身体をゆすっているチョビに、リュシアンは流石に気になって頭から降ろした。


「どうした?」

「チョビがさっきから落ち着かないんだ。たぶん、この首輪が嫌なんだとおもうんだけど」


 この船に乗る際、やはりつけられた首輪。ある程度、従魔の行動を制限させる働きがあり、リュシアンの腕にも同じ文様の書かれた腕輪がはめられている。これは限定的な契約魔法のようなもので、従魔を使って悪さができないようになっている。

 この船に乗っている限り、チョビの魔法やスキルは使ってはならない。使えないというより、使えば罰金や刑罰の対象になるという感じである。要は、この魔物の責任は自分が取りますよ、的なものだ。


 以前、王都に入るときも似たようなものを付けられた。あの時もチョビが落ち着かなくて困ったものだ。町や、都市に入る場合、その町などの取り決めによっては、このような契約道具を付けるのを義務付けられているのだ。

 学園では基本的には制約はなかったけれど、やはり乗り物となると逃げ場はないし、いざというとき対処できる人材もないからだろう。


「そっか、嫌だよな。こんなんつけられて」


 エドガーは、リュシアンの手に乗るチョビの顎をゾリゾリと撫でる。


「そもそも、この人混みも嫌なんだろうけどね」

「そういや苦手だったよな、こういうザワザワしたところ」


 リュシアン達は、甲板から船室が並ぶフロアへと降りてきた。彼らは学生とはいえ、それぞれの護衛と隣り合わせの個室を取っていた。望むと望まざるに拘わらず、それなりの身分の彼らには、それなりの危険とも背中合わせなのだ。


「荷物整理したら、船の中見て回ろうぜ」


 すぐ来いよと言って、エドガーは部屋に入っていった。

 リュシアンは、船に乗ってからずっとテンションの高いエドガーに中てられっぱなしだった。というか、たぶんチョビが落ち着かないことも原因の一つだろうけれど、なぜか気分が塞いで仕方がない。


「船酔いでもしたかな……」

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