祭りの終わり
「あの……、これ、どうするんですか?」
努めて冷静な声でようやく口を開いたユアンだったが、残念ながら背中の羽根はひどく忙しなくバサバサと羽ばたいていた。
(……やめて、羽毛が飛ぶから)
「上級以上が出来たら、いくつかは貰ってもいいって言われてて」
生徒にとっても、それはおそらく会心の出来の物だろうし、研究のためにも一つ二つは持って帰ってもいいらしい。とはいってもリュシアンの場合、特級はわりとちょこちょこできるので、この見慣れない完成品のみ貰っていこうかと思っていたのだ。
あきらさまにショボーンとしたユアンに苦笑して、リュシアンはちょっと迷ってから提案した。
「そうですね、もし……、もう一つできたらユアン先生に譲りますよ」
それを聞いてユアンは大喜びした。出来るかどうかわかりませんよ、と付け加えたけれど聞いていたかどうか。どこまで行っても傷薬、傷を治す以外の効果はないと思うのだけど。
そのほかの面々はどうしているかというと、むろんアリスは武闘大会に、ニーナは魔法、武術両方の大会にエントリーしたらしい。みんなとても張り切ってる。くれぐれも怪我などしなように気を付けてもらいたいものだ。
そして、結果。ニーナは武闘大会の本戦へ進出し、アリスは残念ながら予選敗退だったようである。どうやら、二人ともジュニアの部には出なかったみたいだ。アリスだって、そっちならいい線行ったと思うのだけど。ニーナも魔法の方は予選で落ちたようだし、武闘大会も一回戦で優勝候補の一人と当たって負けたという。
結果だけ見れば散々ではあるが、年長のニーナでさえまだ十四才になったばかり、とにかくまだまだこれからだろう。
学園祭が終わると、学校内は一気に空気が抜けたような雰囲気になる。実際、ほとんどの科で昇級を決める試験も終わっているし、あとは本当に残りの授業の消化のみとなる。しかも、夏の二か月以上に及ぶ長い休みの前とあって、浮足立っている生徒も少なくない。
「あー…、帰りたくない」
エドガーは頬杖をついた行儀の悪い恰好で、腰かけた椅子の後ろ脚を上げたり降ろしたりとギコギコ鳴らしていた。椅子が滑ったら間違いなく顎を強打するから危ないと、リュシアンが注意しても「ふーん」と取り合わない。
「帰りたくないって、モンフォールに?」
ニーナも駄々っ子のようなエドガーに苦笑しつつ、教科書を閉じて聞き返す。
魔法研究科魔法陣の授業が終わり、これから昼休みである。お昼を取るために中庭などで合流することもあるのだが、エドガーはわざわざ教室にまでやってきてなぜかネガティブモードだった。
「……というか、王宮にだよ」
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