幕間ー再び春が来て

 あのキャンプの後、エドガーは新たに魔法科回復魔を取った。まさに生きるか死ぬかという修羅場を経て、心境の変化でもあったのだろう。

 中途からという事と、呪文をほとんど知らないこともあって、素質はともかくⅠからのスタートのようだ。リュシアンも同じクラスなので、仲良く基礎から勉強することになった。

 リュシアンは魔法陣を使えば、どんな魔法も使えるわけだが、それでも新たな発見はいくつもある。見たことがない初級の魔法や、珍しい光魔法の回復呪文の魔法陣などを教えてもらったりと、割と充実した授業だった。


 そして季節が廻り、そろそろ各科では進級試験や研究発表などが行われる時期になった。

 リュシアン達も魔法研究科での成果を発表した。

 直列に並ぶ単一属性の複数魔法陣は無理だったが、並列に展開される多属性の魔法陣を何とか一枚に写せないかとあれこれ試行錯誤して、一つの結果をだした。

 もともと魔力を力として出力する、その部分の呪文式が重複しているのはわかっていたのだ。それなら魔法陣を横につなげることの可能な並列魔法陣なら、重ねてもいいのではないかと考えたのだ。

 リュシアンの念写でのみだが、可能だということがわかった。

 属性が二つ、比較的単純な生活魔法でのみの成功だった。重複した呪文の部分が重なった、なんというか瓢箪のような形の魔法陣だった。

 しかし通常の写生は不可能だったことと、エルフの生活魔法自体がマイナーなこともあり、それらは評価に値しないという判断が下された。

 一応それぞれ一段階の昇級は確定したので、必ずしも落第点ではなかったという結果に、リュシアン達は胸を撫で下ろしていた。

 というか、あまりにもイレギュラーが多すぎて誰一人気が付かなかったのだが、これは実際には物凄い改革の第一歩であった。この世界的大発見は、けれど、こうして思いっきりスルーされてしまったのである。


 うららかな春も過ぎてゆき、夏へと移行していくこの時期に学園を上げての発表会がある。

 武術科、魔法科の技術を競う対戦型の大会に、座学系学科の研究発表など、体育大会と文化祭を合わせたような、実に一週間をかけてのお祭りである。

 そんな準備をする頃、リュシアンは七才になった。

 背も伸び……てはいないが、ともかくこの春のイベントが終われば、あとは残りの単位を取るための授業を消化すれば学園生活一年目が終わる。リュシアンは、ほぼ全教科ひとつづつ昇級が決まっており、まずまず順調だったと言える。

 何よりうれしかったのが、教養科がステップでⅣに上がることだ。

 これがいずれⅥになれば、学園での自由度がかなり上がり行動範囲も広がってくる。

 年齢制限の壁こそあるが、一応冒険者にだってなれるのだ。

 

 ブレないリュシアンの最終目標は、可能かどうかはともかく……、冒険者になって独り立ち、やはりそこであった。

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