ゾラのお仕置き?
「び…、びっくりした。今日は姿を消してないんだね」
いつもは表に姿を現さない隠密。しかも、ここは学校内だ。通常なら護衛も外れているはず、こんなに堂々と出てきて構わないのだろうか。
「……」
「ゾラ……?」
名を呼ぶと、ぴくっとようやく反応した。そこでリュシアンは、前にエドガーが言っていたことを思い出した。
「こちらに来て、事情を話して」
すると、すくっと立ち上がりベッドの間近に進み、その場で顔を伏せて小さく会釈した。よく見ると、ゾラの瞳はいわゆるオッドアイだった。屋外の陽の下では薄茶の瞳に見えたが、片方は金色でもう片方は明るい茶色のようだ。
そしてもう一つ、立ち上がると馬鹿みたいに背が高い。もっとも、これは自分が子供だからそう感じるだけかもしれない。思わずリュシアンは、己の小さい手を見てため息をついてしまう。
「リュシアン様、お加減はいかがですか?」
「平気、この通りすっかり元気だよ。どのくらい寝てたのかな」
強がり半分ではあったが、リュシアンは努めて呑気に答えた。瞬間、ゾラの眉がピクリと跳ね上がる。いつもの無表情のままなのに、なんか怒ってるっぽいのが伝わってきた。
「……五日にございます」
「へぇ……、えっ!? い、五日?」
その驚きように溜飲が下がったのか、ゾラの眉尻は多少戻った。そして、慌ててベッドから降りようとしたリュシアンを猫の子でも扱うように軽々と抱き上げ、そのままベッドへとUターンさせた。
ゾラは、ため息交じりにベッドサイドのテーブルの上のポットからコップに水を注いだ。
「落ち着いてください、そんな恰好でおいでになるつもりですか?」
「あ……、そうだね……うん、ありがと」
怖い顔で、押し戻すように差し出されたコップを、リュシアンはちょっとばつが悪そうに受け取った。改めて自分の恰好を見ると、当たり前だが夜着のままであった。おとなしく水を飲んでいると、ゾラは蹴散らした掛け布団を丁寧に整え、ベッドに座るリュシアンの膝へかけた。
「……ところで、どうして姿を見せてるの?」
「お仕置きにございます、リュシアン様」
思わずゴホッと水をこぼしそうになりながら「はっ?」と聞き返した。
「私に命令違反をさせた上に、無断でお怪我までなさいました。これからは、ぴったりとお傍について片時も離れぬ所存にございます」
「え、いや……そ、それは、どうだろう」
確かに迷惑をかけちゃった自覚はあるけど、あれは仕方がなかったというか……ワザとじゃないし。
「冗談です」
「は…? え……なに」
(ええっ!? じょ、冗談とかいうの?)
ワタワタするリュシアンから空になったコップを受け取ると、ゾラはテーブルにある水を張った桶から手拭いを掬い上げ、硬く絞って手渡してくれた。まるで従者のような優しい気遣いで世話を焼いているが、その表情は相変わらず無表情なまま、ピクリとも動いていない。
「実は、陛下より、リュ……いえ、殿下の隠密を外されることとなり、そのご挨拶に参りました」
受け取った手拭いで顔と手を拭いつつ、ゾラの話を聞いていたリュシアンは、またしても驚いてポトッと手拭いを落っことしてしまった。
「落ちました、殿下」
膝に落ちた手拭いを素早く拾い上げ、すぐに桶の水で洗って再び差し出してきた。気がきくね、って……そうじゃなくて!
「な、なに? どういうこと……、なんで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます