城下町

 王都に到着した次の朝、リュシアンはドリスの料理に舌鼓を打ちながら、昨日は会えなかったリックの紹介を受けた。

 ノアの父親で、管理人夫婦にとっては娘婿だ。

 昨夜は王城へ使いに行っていて、夜遅くに帰ってきたらしい。陛下との謁見は、折り返し返事の使いを出すとのことだったので連絡待ちである。


 それまで時間があるので、城下町を見学することにした。

 楽しみにしていた図書館に行きたかったのだが、陛下の許可を取った方が有利な閲覧許可を取れるのではないかと父に助言され、なるほどそうかもと思った。


 まだ時間も早いし、朝市に間に合いそうである。異世界の屋台とかぜひとも覗いてみたいものだ。せっかくだし食べ歩きなども体験したいとワクワク胸を躍らせるリュシアンだった。

 もちろん父は渋い顔をしたが、昼過ぎには帰ってくるからという約束でなんとか許可してくれた。当然、護衛は付いてくるだろうけど。

 道案内はノアがしてくれると言った。ジムは迷惑になると彼女を叱ったが、それをエヴァリストが許可した。

 リュシアンにしたところで、ぞろぞろと護衛に囲まれて歩くよりよほど嬉しいので、心の中で「ナイス」と父にグッジョブを送った。


 ノアは母親譲りの栗色の髪に、ブラウンの大きな瞳の可愛い女の子だ。

 街に出るようになって知ったのは、日本人のような真っ黒な髪というのはあまりいないということだ。市井の人に圧倒的に多いのは、ブラウン系の髪と瞳なのだ。

 魔力の高い貴族は、どこかの系譜でエルフの血脈と交わっているため、銀髪や金髪が多い傾向にあるらしい。その瞳も、緑や青など全体的に色素が薄いのが特徴である。


 高台にある貴族街から降りていくと、下層へ行くための小さな門があった。門と言っても仰々しいものでなく、区切りのようなものだ。

 門番らしき兵士も二人立っている。ノアは顔見知りのようで挨拶を交わしていたので、リュシアンもそれに倣って挨拶した。不審な人物の侵入者はここで止められるのだろう。

 そのまま下へ降りていくと、朝の活気のある時間帯のせいかとにかく人が多い。今日はお祭りなのかと聞きたくなるような賑わいだ。さすがは王都である。

 すでにもみくちゃ状態で、冗談抜きで迷子になりそうだ。


「ほら、あそこの宿屋で普段は働いてるんだよ」


 人通りの多い屋台の並んだ通りを少し抜けると、ノアが立ち止まった。

 指をさした先には、結構大きな宿屋があった。手入れが整った、そこそこ高級な感じの宿屋にみえた。手空きの時のみではあるが、すでに母親のリンゼイなどは十五年以上働いている古株らしい。ノアも二年ほど前から手伝っているというから驚きである。


 なにか屋台で食べたいと思ったが、なんというかすべてがダイナミックだった。

 普通にマンガ肉がドーンと置いてあったりするのだ。あんな巨大なものを食べ歩きするのはかなり大変そうだが、座って食べようにも、イートインがあるところはどこもいっぱいで、できれば串のような手軽なものが欲しいところだ。

 それに、ちょっとつまむような甘いもの系があまりない。クレープとかが懐かしい。

 食材としては、小麦粉っぽいものはあるのに、そう言われてみればお菓子類はあまりないようだ。

 ちなみにこちらの甘味は、ハチミツや根菜類、あとは蜜サボテンから抽出する。わりと種類も多く、甘さも十分である。

 

 そろそろチョビが限界のようだ。どうやら人込みがあまり得意じゃないらしく、さっきから爪がめちゃくちゃ頭皮に食い込んでいる。

 ぎうっと掴まっているチョビが、すでに孫悟空のワッカ状態だ。


(だんだん締まってきてる、やめて……)

 

 リュシアン(チョビ)の様子を見て、ノアが宿屋の食堂で休ませてもらおうと提案した。朝食の時間もそろそろ終わりなので、空いてればたぶん大丈夫だとのことだ。

 少し早いけれど、取りあえずは屋台を見ることはできたし、お茶でも貰って休憩したら、そろそろ帰ろうということになった。

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