青春オヤジ

mirailive05

鉄砲オヤジ 1

 いつものように仕事して、いつものように24時間スーパーで買い物をして、いつものようにアパートでパソコン開いて弁当を食べる。

 はずだった。

 なのに今俺は、ガラス棚に額を張り付けるようにして、中のものを覗き込んでいた。

 M4A1アサルトカービン。アメリカ軍正式採用の小銃、のおもちゃだ。

 グリップに内蔵されたモーターでギヤを介して、スプリングにつながったエアピストンを動かし、圧搾した空気でBB弾を撃ち出す。電動ガンと呼ばれるものだ。

 それの中古品。だが目の前にあるそれは金属を多用し、ディテールまで再現されている。

 映画やゲームの中でしか見たことのなかったもの。その実物がオーラを放って目の前にある。そして鈍く怪しく黒光りして俺を誘惑する。

 欲しい!

 社会的立場とか生活費とか近所の目とかどうでもよくなった。子供のころに何度かあったものの、歳を取るにつれかなりしばらく忘れていた欲望の炎が燃え上がってしまったようだ。

 店員さんに頼んで、さっそく持ってみる。

 ずっしりと重く、冷ややかな金属の触り心地がたまらない。

 映画やゲームの主人公になった気分だ。無性にこれをもって、リアルフィールドで撃ちまくってみたくなる。

 大活躍してヒーローになった自分を夢想してしまう。ひょっとしたら、社会のモブキャラからランクアップできるかも、そう思ってしまった。んな分けないか。

「買います」

 気が付いたら梱包されたながーい箱を持って、アパートの前に立っていた。

 部屋に入ると一も二もなく蓋を開けた。

 慎重に取り出し、構えてみた。やはりずっしりと重く冷ややかだった。意味なく振り向いて構える。立って。片膝ついて。伏せて。

 うーんいい!

 なんかこう、体の奥から熱い何かがあふれ出てきそうだ!

 三十うん歳のおっさんが、ひとりアパートで大騒ぎしていることなど気にしない。

(どうだい、俺は?)

 銃が語り掛けてくるようだ。いいぞ、たまらんよお前は!

 昔夢中で見た映画やゲームのシーンを思い出して何度も構えてみる。初めて銃の重さで思ったほどには動けないことが分かる。だがそれさえも新鮮で楽しい。

 小一時間ほど堪能して、寝る前にエアガンについて少し調べようとPCを開く。

 そして愕然とした。圧倒的な種類のエアガン本体、そしてそれを遥かに上回るオプションパーツの数々。みなどれもカッコいい。

 新たな物欲の炎が、めらめらと燃え上がってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る