第11話「同調」
彼が私をかばって怪我をした。大変だ大変だ大変だ。血が出ている。赤い。赤い。助けなきゃ。助けなきゃ。助けなきゃ。
そうだ――彼を助けなきゃいけなかったんだ。私は。私は?
『あのまま肩壊しちゃえば良かったのに』
『そんなことをしたら俺が警察のご厄介だろ』
『ま、見ててスッキリしたから良いけど。ありがと裕哉君。それでどうする? デート続行……?』
『どうしたも……っ!?』
無線で受け答えをしていた裕哉の耳を、一際甲高く、音叉のように響く波長が打った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私が、悪かったの……。浮かれてたの。私のせいで」
振り返った裕哉が見たのは、三嶋の顔にハンカチを当てながら、繰り返し繰り返し謝っている吉岡の姿だった。
「吉岡……? いや、安藤美夏だなあんた」
気が付けば黒い靄が薄まって、吉岡と三嶋の間を漂っている。おそらく、吉岡と安藤の気持ちが同調したことで、取り込んでいた飛縁魔より吉岡の方に安藤美夏の心が寄っているのだろう。
「私の名前、夏だったから。初デートは絶対夏祭りが良いって。ごめんなさい。我儘いって、私のせいで」
「あんたの、せいじゃねぇ、よ。いてて、口の中が切れてらぁ」
ハンカチで血を拭っていた吉岡の手を取ったのは三嶋だった。三嶋は身を起こし、口の中に溜まっていた血を地面へと吐き捨ててから、もう一度吉岡、安藤美夏と向き合った。
「なぁおい。聞こえてんのか? 俺は聞こえたぜミカさん。あんたのせいじゃねぇだろ?」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「裕哉、なんとかならねぇのか? ずっとこうなんだ。俺が見つけた時から」
「お前、わかってたのか? 安藤美夏がもう……」
「ああ。ずっとだぜ? 何年かは知らねぇがずっとだ。想像できるか? 俺には無理だ。だから、夏祭りくらい俺が行ってやるって言ったんだ」
「そうか……。全く変わった奴だよお前は。待ってろ。俺は所詮“聴く者”でしかないが、あかりなら何とかなる」
無線で灯里を呼びながら、裕哉は正気に戻った友人を見ていた。飛縁魔に侵されている間は暗示がかかっていたが、こいつの発端はそこだったのだろう。そう、はじめの心が肝心なのだ。
彼女の発端は自分の我儘で彼を危険に晒したこと。祭りに行きたかったというのは、飛縁魔によって表面化され利用された願望部分に過ぎず、未練はそこだ。
そして自分や灯里の発端も、退治ではない。救いを求めて足掻くものだったからか、裕哉はどうにも三嶋の行動を自分と重ねて見てしまっていた。
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