マッチ売りのマリア
池田蕉陽
第1話 いざ、本の世界へ
「うわぁぁっぁぁっああ...!」
教室の端っこの席で私は赤ん坊のように号泣していた。
教室内にいるみんなの視線がこちらに向くが、それでも私は気にせず号泣する。
「ちょ!え?明(あかり)どうしたん!?」
突然泣き始めた私に、心配の声を掛けてきたのは親友の友江(ともえ)だった。
「この本がな...超泣けんねん...」
鼻水を垂らし、しゃっくりが混ざった声で言うと、親友は呆れた様子で
「は~?~また本で泣いてたん?ほんまに明って涙脆いよな~」
「だってほんまに泣けるねんで?この本、最後に主人公が死んでな?それから...」
やっと落ち着いてきて涙の流れが収まってくると、私はその本の泣ける要素を教えるが。
「あーもう本の感想はいいよ!」
親友はそれを面倒くさそうに受け流す。
「なんでこう本のことになると感傷的になっちゃうのかね~あなたは」
「んーーなんでだろう」
真剣に考えてみたが、その様子を親友はおかしそうにゲラゲラ笑った。
「は?ちょ、笑うなや!」
「いやいや~アホだなって」
さらに親友が私を馬鹿にしてきて、笑う。
もう、この女に泣き顔は見せないでおこう、私はそう心に決めた。
学校の帰り道、いつもの大きめな公園をショートカットをしようと公園に入るが、今日はリサイクルショップをやっているらしい。
あちこちで人が自分の陣地で商品を売り出している。
客を呼び出す掛け声が飛び交う中、私はどんな商品があるか目で確かめながらも我が家を目指し、進んでいく。すると高年者のヨボヨボのお爺さんに後ろから「あーちょっと、そこのお嬢ちゃん」と呼びかけられた。
「あ、はい?なんですか?」
このお爺さんもなにか売り出しているのだろう。私はちょっとやそっとじゃ惑わされへんで?と心の中でニヤニヤ笑う。
「ちょっとお嬢ちゃんに買ってもらいたい商品があるんじゃ~」
ほら、きた、商売下手のクソじじいめ、私が返り討ちにしてやる。
※注意 主人公は口が悪いです
「はい、なんですか?」
私は心と裏腹に表では丁寧な、おしとやかの少女を演じた。もちろん親友にはこんな礼儀正しくはない。
「この本なのじゃが...」
お爺さんは青いビニールシートに積まれた一番上の本を取り出すと、それを私に見せてきた。パッと見た感じ絵本のようで、文庫本のように分厚くはなく、数ページしかなさそうだ。
「マッチ売りの少女?」
その本の題名は誰もが知っているであろう、マッチ売りの少女だった。
「そじゃ、これがなかなか売れんくての~買ってくれたら嬉しいのじゃが~」
お爺さんはキモチワルイ上目遣いでこちらをキラキラ見てきたが、私は屈しない。
「すいません~今ちょっと手持ちのお金がなくて~」
この場を離れるために、嘘の口実を言うが、お爺さんはそれでも見透かしたようにグイグイと推してくる。私はそれでも屈しない、改めて心に違うが、次の一言でそれは崩された。
「これはじゃな、実は普通のマッチ売りの少女じゃないのじゃよ、なんと作者は神様!しかも内容が変わっててじゃな~さらに泣ける要素がドーーンと詰め込まれたんじゃ」
「買います。」
作者が神様についてはどうせ嘘だろうと思った。そんなことより泣ける要素がさらに入ったって!?ただでさえ、あんなに泣けるマッチ売りの少女なのに!?そんなの買う以外選択はないじゃないか!
「いくらですか?」
「1000円じゃ」
「っ!!」
ちっ!このボッタクリクソジジイめ!だが、進化した更に泣けるマッチ売りの少女のためなら私は1000円だって払ってやろうじゃないか。私は数秒前と思ってることが違うやんけ!と自分で自分を突っ込みたくなった。
お会計を済ませると私は悔し涙を流し、帰路を歩いていった。
一軒家のチョコレート色の扉を開けると「ただいま」と一言挨拶をし、2階のマイルームに入った。
カバンを雑に放り投げ、そのままベッドにダイブすると、早速マッチ売りの少女を手にする。
絵本なんて久しぶりだなぁ~と思いつつ、ワクワクしながら一ページを捲った。
ストーリーもそんなに長くなく、文字も量も少なくて、おまけに絵もついてるので場面が頭に入って来やすかった。
いや、そうじゃない...
「やられた...あのクソジジイめ...騙しやがって...」
マッチ売りの少女のストーリーは次の通りだった。
年の瀬も押し迫った大晦日の夜、小さな少女が一人、寒空の下でマッチを売っていた。マッチが売れなければ父親に叱られるので、すべてを売り切るまでは家には帰れない。しかし、街ゆく人々は、年の瀬の慌ただしさから少女には目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりだった。
夜も更け、少女は少しでも暖まろうとマッチに火を付けた。マッチの炎と共に、暖かいストーブや七面鳥などのごちそう、飾られたクリスマスツリーなどの幻影が一つ一つと現れ、炎が消えると同時に幻影も消えるという不思議な体験をした。
天を向くと流れ星が流れ、少女は可愛がってくれた祖母が「流れ星は誰かの命が消えようとしている象徴なのだ」と言ったことを思いだした。次のマッチをすると、その祖母の幻影が現れた。マッチの炎が消えると祖母も消えてしまうことを恐れた少女は、慌てて持っていたマッチ全てに火を付けた。祖母の姿は明るい光に包まれ、少女を優しく抱きしめながら天国へと昇っていった。
新しい年の朝、少女はマッチの燃えかすを抱えて幸せそうに微笑みながら死んでいた。しかし、この少女がマッチの火で祖母に会い、天国へのぼったことは誰一人知る由はなかった。
※ めんどくさかったのでWikiのやつまるごとコピペさせていただきました。申し訳ございません by 明
マッチ売りの少女のストーリーは一つも改善されてなく、全く同じだったのだ。頭の中であの憎たらしい笑を浮かべるじじいを想像すると、余計に腹が立ってきたのでやめる。
それでもって私ってやつは...
「でも...でも...やっぱり涙が止まんないじゃんかぁぁぁぁぁ」
内容は知っていても、やはりこの物語は何度見ても泣ける。今日で号泣するのはこれで2回目だ。涙がからっぽになるんじゃないかと心配するくらいに泣いてしまった。
私がいつまでも感傷に浸っていると、どこからともなく声が聞こえたきた。
「本当にその絵本、泣けますよね~」
「うん、めっちゃ泣ける...っえ!?」
私は思わず声に応答してしまった。声がした隣を見ると、そこにはベットの横で私と同じく涙を流している女の人が立っていた。
「きゃぁぁぁぁ!!!めっちゃ可愛い女の子が私の部屋にいる!きゃぁぁぁぁぁ!!」
「うんうん、私を初めて見た人はみんなそうやって驚くってえ?そこ!?」
なんか、知んないけどノリツッコミしてくれた。ってか誰この人
その女の人は自分がノリツッコミしたことに少し恥ずかしさがあったようで、赤面した表情を見せる。
「コホンっ!えっと、私はその絵本を愛する天使、熊五郎と申します」
熊五郎?ぶはっ!いや、名前...笑笑笑 天使にその名前はあかんて笑笑だめよ、私、笑いを堪えるのよ!
「っ....っ!!...っぶひゃひゃひゃひゃひゃ」
とうとう我慢の限界が来てしまった私は今年一番笑ったんじゃないこと思うくらい、声に出して爆笑した。それを聞いた天使はむすーと頬を膨らませ
「どうしてなんですか!?なんでみんな私の名前を聞くとこんなに爆笑するのですか!?」
「いや...(笑笑)だって...(笑笑)熊五郎って(笑笑)全然名前のイメージと違うねんもん(笑笑)」
笑って喋るのもしんどいがなんとか全部伝えきると、さらに天使の熊五郎はむすーと頬を膨らませた。
「もういいです!名前は忘れてください!!そんなことよりお願いあるのです」
「え(笑)お願い?なんですか熊五郎さん ぶはっ(笑)」
「...私は先程も申しましたが、この本を愛する天使、どうかこの本の結末をハッピーエンドに変えて欲しいのです」
熊五郎の名前をいじりつつ、要件を聞き出すと、マッチ売りの少女のラストをバッドエンドからハッピーエンドに変えて欲しいとのことだった。
「ハッピーエンドに?」
「はい、そうです。今現時点でのマッチ売りの少女はラスト死んでしまうと言うとても切ない終わり方です。」
コクリコクリと頷きながら話を聞く。
「それで明様にこの本の世界に行って彼女を救ってほしいのです」
「ええええ!?」
大袈裟なリアクション取るがこれはわざとじゃない。それは私が予想していたものと全くちがうからだった。
「ほ、本の世界に!?てっきり私はラストだけを変えて新しいマッチ売りの少女を書いてほしいのだと」
「いいえ、本の世界に入って彼女を救ってもらいます。これは命令です!」
さっきお願いって言ったよね?だが、私は言っても無駄だと思い口には出さなかった。
「別にいいよ~」
「そうですよね...いきなりそんなこと言われても困りますよね...ってえ!?そんなあっさり!?」
もう二度と見ることはなかったと思っていたノリツッコミが登場すると、私はゲラゲラ笑った。
「だって本の世界に入れるなんて素敵やん!それに、私もこの子を助けてあげれるなら助けてあげたい!」
一度は行ってみたいと自分から望んでいたくらいだから私は快くOKする。
「え、いや、そうですけどぉ~1回入ったら助けるまで出れませんよ?」
「え!?出れないの!?」
それは予想外だ。だとするといろいろ問題が発生する。お母さんにどうやって説明したらいいんだろう...
「あ、でも安心してください、向こうの世界にいる時は現実世界で時間は進んでいませんので」
「あ、そうなの!?なら良かった」
「やっぱりそこはあっさりなんですね...」
一番心配していた事が今解消されたので、私は早く連れて行ってよっと熊五郎に頼んだ。
「分かりました、では」
天使の熊五郎が目を瞑り、なにかよく分からない言葉でぶつぶつ言っている。すると数秒後、本の周りに光が現れ本を包むようにして輝いている。私はその状況に目で見ることしか出来なかった。
「また、会いましょう、彼女を救った後に」
その刹那本の辺りで光っていたオーラが突如ブラックホールの様に空間で穴があき、私を吸い込んでいった。
その時の状況と感覚はは全く覚えておらず、私はいつの間にかマッチ売りの少女のあの舞台、ヨーロッパ風の街、いや風ではなくヨーロッパだ。時間帯は夜で空からは雪が降り、地面に落ちるとさらに雪が積もっていく。
周りには見慣れない格好の人々が行き交う。
私本当に来たんだ、この世界に...
ここから私と少女とある少年の物語が始まるのであった。
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