魔王を倒して転生したら日本とかいう国だった

キタノコウ

第1話 おお勇者よ。死んでしまうとは情けない


 ――思えば長い長い冒険だった。

 目の前には瀕死の魔王。後ろには傷つき倒れながらも行く末を見守る仲間達



「ぐぅ……見事だ。勇者よ……」

「魔王。これで終わりだ!」

「クハハ。……終わらんさ。勇者と魔王は表裏一体。光と闇だ」

「何?」

「私がいたからキサマという光が生まれた……歴史は繰り返すだけだ」

「世迷言を!」

「嘘ではないさ。ひと時の光の世界を……楽しむがよい」

「……そうだとしても。俺はこの世界を守る! 聖光斬!」


 勇者アインは魔王の言葉を受け、迷いながらも頭を振り聖剣を振りかざすと魔王へと振り下ろした。




 傷付きながらも凱旋を果たした勇者一行はすぐさま王の元へと馳せ参じ、これまでのことを語り報告したのだった。


「……という次第です。」

「フム。死に際に魔王がそんなことをな……まぁ悔し紛れじゃろう。」

「だといいんですが……」

「とにかく今日は宴じゃ! 勇者とその仲間達よ。今宵は存分に疲れを癒してくれい」



 

 アイン達は各国の王が集まる晩餐会を終え各々あてがわれた部屋へ戻って行ったが、事件はその後起こった。


「……ん? ここは?」

「目が覚めたか。勇者よ」

「王様?! これは何の真似です?!」


 アインの両手両足は鎖で繋がれ目の前には薄く笑う王がいるではないか。


「せっかく魔王が死んだのだ。これからはワシが世界を支配する。勇者を生んだ国の王として各国をねじ伏せられるのだ」

「な、何を?!」

「しかし……それにはお前が邪魔なのだよ。民衆はワシよりお前を担ぎ上げるだろう」

「……」

「なぁに。魔王の死に際の言葉もある。死んだ方が世界のためではないか?ファファファ」


 暗い笑いが響くなか、アインは必死にもがくが、魔力を籠められた吸魔の鎖のせいで力がでずにガシャリと鈍い音を立てるだけだった。


「民には勇者は隠遁して暮らしたいと姿を消したと言っておくさ。では勇者よ。ご苦労であった」


 王がクイっと首を動かすと後ろに控えていたズタ袋を被った巨漢の持つ斧がアインの首へと吸い込まれるように振り落された



――あぁ。俺の人生はこれで終わりか。願わくば俺の死によって世界が平和になりますように……


 それを最後にアインの意識は闇へと沈んで行ってしまった。

 最期まで世界の行く末を憂う本物の勇者の姿がそこにはあった。



 暗い地下牢には勇者の死体と王の狂ったような高笑いだけが響いている

「あーっはっはっはっ。おお勇者よ。死んでしまうとは情けない」



 笑いながら地下牢を後にする王達は気が付かなかった。

 勇者の死体が光に包まれ忽然と消える瞬間を。

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