売ります。

@momo-chan323

第1話

「はい、じゃぁえりちゃんね。何を見て今日はここに来たのかな?」


香水のきつい店長と呼ばれている方が私に胡散臭い笑顔を向けている。

私は目を合わせずに答える。


「検索エンジンで"音也市 キャバクラ 求人"で検索したらここが一番上だったので…すみません。」


「いいよいいよ。なんで謝るのー。こういうとこで働くのは初めてかな?」


う、やはり経験がないといけないのだろうか。いや、そんなことはない。

今働いている方々だって最初の頃があった筈だ。

それに、ここで怖気づいてはお客さんの前に出ることなど到底できないだろう。


「はい、初めてです。ご迷惑をお掛けすることも多いかと思いますがよろしくお願いします。」


「うん、よろしくー。じゃぁね、あとは他のお姉さんに聞いて。」


「えっ…。」


スタスタと外に出て行ってしまった店長。初めてだと聞いた上でその対応はいかがなものかと…などと口に出せるはずもなく、仕方なしに先に案内されていた控え室のドアを開けた。

5月にしては湿気の強い空気とむせ返るような香水の匂い。赤や紺色、黒や白の布地にきらびやかなスパンコールやビジューが施されたドレスを纏った女性達が一斉にこちらを向いた。


あ、ムリだ。

そう思った私はドアを閉めようとする。

やはり私にキャバ嬢など元来無理な話だったのだ。

しっかりと上にも下にもついたつけまつげ、キラキラというよりもギラギラとしたらラメのアイシャドウ、キリッと引かれたアイライン…そんな目に見つめられると自分が蛇に睨まれた蛙のような心境になる。つまりは怖いということだ。

蛙の私はこれから蛇に仕事を教わらなくてはならない。


うん、無理だ。

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