斜め45°
@as-yuito
第1話 部屋
「ただいま」
小さな声で呟いて部屋に入る。
二階建てアパートの階段を上がりきった左の部屋。
小さな玄関には男ものの靴がところ狭しと並び、そのなかに1つだけ小さな女性用の白いサンダルが紛れている。
そこへ青い線の細いサンダルを無理矢理脱ぎ、鍵を閉める。
廊下を進んだ先のリビングに荷物を置くとロフトへの階段をのぼる。
いた。
大きな体を丸めて眠るこの部屋の住人。
御幸 那智(みゆき なち)
起こす前に那智の頬に手を滑らせ、軽くキス。
それからそっと抱きしめ、深く息を吸い込む。
うん、那智のにおいだ。
「ほら朝だよ、起きて」
体を離し、声をかける。
こうやって那智を起こすのが日課になりつつある。
那智は朝が弱い。
いつだったか、唯一お前に尊敬するところは朝が強いところだと言っていた。
まったく失礼な話だ。
やはり起きる気配がない。
しかたがない。
Tシャツの中に手を滑らす。
「んっ」
触れた瞬間、少し掠れた声で反応する。
眠っている那智に煽られたことに若干苛立ちを覚えながら、余裕のなさを隠して耳元に近づく。
「寝てるのに感じちゃうなんて、那智は変態さんだねぇ」
きっと言葉は聞こえていない。
聞こえていても理解はしていない。
それなのに身をよじらせる彼が可愛くてしかたない。
愛でるように手のひらを優しく体のラインに沿わすように撫でる。
「……もっと」
目は開かないが、微かに漏れた声。
起きたことに気づき、耳元にキスをする。
「こら、先におはようでしょ?」
母親が子どもに優しく注意するような口調。
しかし指は敏感なところを擦る。
「んっ、おはよ、ございます」
途切れながらの挨拶。
「ん、おはよう」
頭を撫でながら頬にキス。
離れようとすると腕を捕まれ、抱きしめられた。
「んー、どした?」
抱きしめ返しながら問いかける。
那智はしがみつくように抱きつきながら、耳元でごもごもと話す。
「もっと……して?」
「なにを?」
「だからさっきの」
「ぎゅーー?」
「っ、それもだけど、その」
「ちゃんと言わなきゃわからないよ」
少し体を離し目を見つめる。
那智はその視線から逃れるように顔を背けようとするが許さない。
「ちゃんとこっちみて」
頬をなぞりこちらを向くよう促す。
それに従いゆっくりとこちらを向く。
「もっと、気持ちよく、して」
これだからうちのこは可愛い。
快楽に柔順だ。
それは私もなのだが。
「いいこ、じゃあご褒美ね」
その言葉がスタートの合図。
これがいつものふたりの朝。
斜め45° @as-yuito
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