-第25話-(終)【朝を願うも願った朝は来ず】
ひと通り説明が終わった後、俺が置いたスイッチが赤色に点滅し始めた。
「これを押したらまるで俺がお前を殺してるみたいじゃないか。」
「は?何いってんのお前。こいつは死ぬの当たり前だから。」
副隊長の稲田がそう言う。さっき言っていた、誰も気にはしてくれなかった、というのはどうやら本当らしい。
「いや、アンタ頭おかしいんじゃ……」
「やめろ」
橘が止めた。
「どうして?」
「良いから。」
「さっきからお前らどうしたんだ?」
こんなのが次期隊長になると思うと、背筋がゾッとした。今の子供たちに、そんな心はないのか。人を守りたいとか、そう言う道徳心とか……。だが、橘の言うことを聞くことにした。無駄だと思った。こんな奴、いつか潰してやる。
「何でもない。じゃあ、俺がこのスイッチを押せばいいんだな?」
あくまで淡々と、無感情に言った。
「ああ。そうだ。それじゃ、副隊長。俺の後は頼んだ。」
「はいはい。今までありがとうございました〜」
ったく、ほんとにこいつ舐めてやがる。
「それと、高田。お前はもうちょっとここにいろ。最後に全員いるか確認させる」
「了解」
じゃあなー、とまるで友達と別れる時のように言って稲田は去っていった。
「いやー、あれが今の人間だからな……。まあ、最後に話すのがお前でよかったわ」
「ほんとに、あいつなんかでいいんですか?」
「しょうがないんだよ。あいつはこの隊が構想時点の時から一緒に居たからな。一番わかってるやつなんだよ。それに、今後どうして行くかもあいつにしか教えてないしな。」
そうか…。そりゃ、しょうがないな。
「分かりました。それで、何の用?」
「お前な、最後くらいいいじゃねーかよ。優しくしてくれたって!」
「甘えんなお前!ったく、ほんとに…」
「いーじゃーん!」
死ぬ間際の人間の言葉かよ。あまりに落ち着いている
「でもな、正直お前には助けられたわ。ここだけの話心配してくれて嬉しかったんだよ。お前に。」
そんなことを思ってたのか……。1人で責任全部背負って、それでその仕打ちじゃ、辛いだろうな。
「俺は昔、家族を失ったのを、何故か覚えてんだよ。あの日の東京は、地獄絵図だった。そんな中で、家族が俺に『強く生きてね』って言ってどこかに消えてったんだよ。3歳だったのに、なんで覚えてんだろうな。」
「そうか。それでお前には“慈悲”ってのがあったんだな。やっと分かったわ」
「ああ、冥土の土産にでもしてくれよ。それでも足りんってんなら、俺が友達になってやるよ」
「死ぬ間際にかよ」
「うっせーなー、いないよかマシだろ」
「あー、うれしーよ」
「キャラにあってねーぞ」
「だって、嬉しかったんだもん!」
「うっわキモ〜」
「うるっせえ!」
「まあでもやっとあんたの中学生っぽいところが見られたから良かったわ」
「そうかそうか、そりゃ良かったわ。それじゃあ、それを担保にひとつ頼んでもいいか?」
「取引かよ!?まあいい、なんだ?」
「これ、持っててくれ」
そう言って渡された封筒には【遺書】と書かれていた。
「ったく、嫌なもん人に持たせて……。」
「それは、頼んだからな」
「分かった分かった。確かに預かりました!」
「よしいいだろう!」
その直後、
『こちら避難ポイント司令部。総員確認終了。恐らく全員います。送レ』
「こちら基地司令部爆弾起動室。了解した。カウントダウンの用意を開始する。爆弾の起動時間は、
『こちら避難ポイント司令部。復唱します。爆弾起動時刻は〇五四八。送レ』
「こちら基地司令部爆弾起動室。復唱を確認。これより起動カウントを開始する。声は聞こえますか?」
『声聞こえてます。いつでもどうぞ。送レ』
「いよいよだな」
「ああ、あんたに会えて嬉しかった。最後になにか言うことはある?」
「そうだな……。朝日が見たい、かな」
「同感」
「だよなー…。まあ、死に際にでも見れれば幸運よ」
「見れることを祈るよ。あんたも、俺も。」
「そうだな。それじゃ、天国でいつか会おう」
「それって地獄じゃね?」
「いーんだよ!細けーな!」
「あーはいはい分かった分かった」
「それじゃ、またな」
「おう、またな」
お互い深く握手をして、俺が無線に言った。
「こちら基地司令部爆弾起動室。カウントを開始します」
『了解』
「カウント、十、九、八、七、六、五、四…」
三
二
一…
カチ、と音がした。その後、
【
―――――――――――――――――――
-カウントダウン-
爆破まで
09:59.59
―――――――――――――――――――
「早く逃げろ!」
「おう!達者でな!」
再び握手し、俺は駆け出した。
****
やがて閃光が走り、
全てが光に包まれた。
**その少し前**
3…
2…
1……
「爆破を確認!繰り返す、爆破を確認!」
辺りは歓声に満ちた。よし、と稲田は言った。
*
「う……」
俺は今、死んだよな。そりゃそうだな。起爆室にいたら絶対死ぬよな。そう言って目を開けてみる。
「おぉ……。なんだこれ、生きてやがる。とは言っても、これじゃあもう死ぬな」
自分の体を見ると、全身から血がダラダラと流れていた。その時、視界が明るくなった。
「おぉ……。こりゃ最高だ」
どうやら自分は爆風で地上に戻ってこれたらしい。目の前に広がっていたのは、綺麗な朝日だった。
「これでもう、思い残すことなんて……ねぇよ……」
*
走る。走る。後ろを見ちゃダメだ。後ろを見たらきっと俺は止まってしまう。無心になって走る。ふと、腕を見ると、雫がついていた。目を拭う。
「
地下通路まできた。ロックをかける。これで、もう誰も地下から逃げられない。覚悟を決め、走り出そうとしたその時、けたたましいサイレンとともに
『起爆まであと1分です。館内にいる方は至急避難してください』
そんな合成音声のアナウンスが聞こえた。
「逃げなきゃ」
無心に走ろうとする。その時、視界の隅に動く物体が映った。
「うぅ…」
聞き覚えのある声だった。お前は……
「
「つば…さ…?」
「ああ、そうだよ!動けないんだろ、担いで逃げるからちょっと待ってろ」
「でも…さっきあと1分って…私のことはもういいから…」
「もういい、喋るな!」
その直後、視界が真っ赤に明るくなった。ああ、時間だ。橘が俺に残してくれたこの命。無駄にはしたくなかったな。せめて、こいつだけでも救いたい。俺は、綾乃を守るように覆いかぶさった。
*
あの日の朝日は、人を救い、人を殺し、そして、人の心に火を灯した。
**10years later・10年後**
『こちら管制。UH-60JA、離陸を許可。繰り返す、離陸を許可。離陸後、安全を確保しながら偵察せよ。送レ』
『こちらUH-60JA。了解。離陸します。終ワリ』
ヘリが離陸していった。
この世界に、平和が訪れる日は、来ないらしい。
fin.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます