その温もりを感じていたくて。

胡桃澪

第1話 大学生に拾われました。


彼氏が浮気した。付き合って5年目の夏の話でした。


「ただい……」

「ゆ、優愛!? 何でっ」


いつもより珍しく彼氏と同棲する家に早く帰った日だった。ベッドルームに行くと、知らない女の子と裸で抱き合う彼がそこにはいた。


ドラマでしか見た事のない光景。まさか自分にそんな日がやって来るとは思わなかった。


「最低っ!! ひどいよ、ひどいよ! 健介! 」


私は健介に向かって本を投げつけると、すぐさま家を出て行った。


「ゆ、優愛!! 」


苦しくて苦しくて、仕方がなかった。7年も付き合って、結婚だって意識し出した頃だった。


両親にも何回か会わせている。27歳になった私は健介と結婚するもんだと信じきっていた。


なのに、彼は簡単に私を裏切った。頭から離れてはくれない。彼が他の女の子に触れる姿。


「マスター、お代わりっ」

「お姉さん、そろそろやめといたら? それにここはただの居酒屋だ。マスターはやめてくれ」

「高いお酒頼みますからー! 今日は飲みたい気分なんですー! 」


家に帰れない私は居酒屋で一人、ひたすら強い酒を飲み続ける。自暴自棄にもなる。大好きな人の裏切りにどうしたら良いか分からない。


「あーあ、私も浮気してやろっかな。やってられっかーっ! 」


カウンターで一人、泣きながら荒れる私に店員は呆れ顔だ。


どうしよう? 今日はネットカフェに泊まる? それとも、カプセルホテル?


何で浮気された私がそんな狭い所に泊まらなきゃいけないんだろう……。理不尽な。


「失恋したの? 」


いきなり隣に座っていた男の子が私に話しかけてきた。見た感じ大学生くらいの年齢だろう。


「まあ、そんなとこ。お姉さんくらいになるとね、色々あるわけよ」

「話、聞く」

「へ? 」

「一人でお酒飲んでたって発散にならない」


タメ口で小生意気な子だ。でも、気付いたら私は彼にぶちまけてしまっていた。誰でも良いから話を聞いて欲しかったんだ。


「5年……か。でもさ、そいつとしか付き合った事ないんだろ? 」

「ま、まあね」

「結婚してから後悔する可能性ある。浮気するような男なら」

「で、でも! 健介が良かったの! 私は! 健介以外の男子に惹かれたりしない。なのに、あいつ……」


涙が止まらない。もう別れるしか無いんだろうなぁ、こうなったら……。


「あんたは何も悪くない。辛かったな……」


涙を流し続ける私の頭を彼は撫で続ける。私、情けないな。年下の男の子にこんな姿見せるなんて。


私は手にしていた日本酒を一気飲みする。だけど、その瞬間視界が揺らいだ。駄目だ、立つの辛いかも……。だんだん、意識が薄れていく。


「家に来いよ。帰れないんだろ? 」

「う……ん」


もう、どうなっても良いや……。


私が次に目を覚ました時には朝になっていた。


「えぇっ!? 」


隣には昨日話を聞いてくれた男の子が眠っていた。


「ふ、服は着てる。わ、私……何て事を」


アラサーにもなって話を聞いてくれた若い男の子に持ち帰られるって。しかも、頭クラクラしてまだ立てないし。なんて大迷惑な。


「ん……お姉さん、起きた? 」

「ご、ご、ごめんなさい! 私は大変ご迷惑をおかけしました」

「へ? 」

「話聞いて貰った上に家に泊まるとか。でも、ごめんなさい。途中から記憶が無くて……」


昨日は酔っててあまり気付かなかったけど。この子、美形だ。襟足まである長い黒髪、焦げ茶色の鋭い瞳、白く透き通った肌、特徴的に感じさせる口元のホクロ。いかにも儚げな美少年だ。


「立てる? 」

「ま、まだ辛いです……」

「そ」


そう言うと、彼は部屋を出て行った。話聞いてくれたし、悪い人ではない? いや、だめだ。簡単に信用しては。でも、頭がくらくらしていて、まだ立ち上がるには辛すぎる。


「ん」


戻ってきた彼は水の入ったグラスを私に渡す。


「これは? 」

「砂糖水。二日酔いに効くから作った」


変な物が入っていないだろうか?


「大丈夫。変な物は入れてない」


見透かされてる。


「あ、ありがとう」


私は砂糖水を一気飲みする。


「もう少し寝てて良い。朝ご飯作って置いとくから。俺は今日、午前大学に行かなきゃいけない」

「えっ? 土曜なのに? 」

「補講……」


やっぱり大学生なんだ、この子。


「あの、何から何までありがとう。ごめんなさい! 迷惑ばかりかけて」

「別に気にしない。拾ったのがたまたま猫でも犬でもなくて年上のお姉さんだっただけの話だ」

「犬猫と同列なんだ……」

「ねぇ、お姉さんの名前は? 」

「へ? 」

「知りたい」

「み、宮瀬優愛」

「優愛、覚えた。俺は琥珀」

「琥珀……? 」

「ん。それが俺の名前。呼び捨てで良い」


綺麗な響きの名前だ。なんかキラキラネームに近いニュアンスだけれども。


「じゃあ、琥珀。ごめんなさい! 二日酔い治ったらすぐ帰るから」

「帰る? クズ彼氏のいる家に? 」

「健介、不定休で今日は確か仕事だから服とか必要な物だけ回収して友達んちでも当たるよ。だから、大丈夫」

「俺んちの子になれば良い」

「そ、それは悪いからっ」

「食事支給、寝床あり、性交渉一切無しという契約なら問題は無い」

「最後の一文….…」

「優愛、そういうの気にするかなって」

「と、とにかく! 君はまだ学生。私は社会人!そういうのって君にとっては良くないから」

「20歳は子供じゃない。結婚できる、選挙権ある、お酒飲める」

「そ、そうかもしれないけど! 」


20歳なんだ、この子。5才も下じゃない。


「とりあえず、話は後。優愛は早く寝て。立つのもしんどいんでしょ? 」

「は、はい……」


いきなり呼び捨てですか。今の20歳ってなかなかすごい。とりあえず、害は無いと見て良いのかな? 砂糖水用意してくれてたし。昨日、多分介抱大変だっただろうな、この子。


彼は私が眠りにつこうとするのを確認すると、キッチンに立ち、朝食を作り始める。


男子学生の一人暮らしだからか部屋は寝室と台所が一枚の扉で仕切られているだけだし、後あるのはトイレと風呂場くらいだろう。こんな狭い所に二人とか申し訳ない気持ちになるばかりだ。


健介以外の男子を暫く好きになれそうにないし。あんな事があっても長い付き合いだったから簡単には忘れられない。


「出来た! 今日は綺麗に……」


今日は綺麗に!? 彼が料理を始める事数分。何かを焼いている音は消え、彼は嬉しそうにそう呟いた。


あまり料理に自信が無い子なのかもしれない。でも、20歳で一人暮らしか。


私、一人暮らしは今迄に無いな。大学卒業するまではずっと実家だったし、社会人になってからはすぐに健介と同棲で。多分、健介と別れたら一人暮らしになるだろう。


不安しかない。突然、自分が家に一人になったらどうしようって言う不安。だけど、実家には帰りたくなかった。誰かに頼らないと自分は生きられないって認めちゃうような気がして。


「優愛」

「どうしたの? 琥珀」


料理を終えると、琥珀は再び寝室に現れた。


「今から大学に行ってくる。昼には帰るから一緒にお昼ご飯食べよ」

「えっ! 」

「同棲うんぬんの話は帰ってから」

「あの! 私、認めてな……」

「目玉焼きとサラダ作った。スープは粉末のとカップ、テーブルに置いた。お湯勝手に沸かして飲んで良いから。冷蔵庫にある物も勝手に飲んで良いから。何かあったらメッセージか電話で」

「えっ! 私、君の連絡先知らな……」

「入れといた」


私は慌ててスマホを確認する。メッセージアプリの友達一覧には確かに“成瀬琥珀”という名前が追加されていた。


「い、いつの間に……」

「じゃあ、行ってきます」


琥珀は私の頭を優しく撫でると、家を出た。だから、私は犬かって。


「あっ! 鍵貰ってない……」


これじゃあ勝手に出て行く事も出来ないな。昼に会った時にちゃんと説得して友達の家に泊めて貰おう。


「そういえば……」


スマホを再度確認すると、健介から電話とメッセージが大量に入っていた。メッセージを一件見てみると、『ちゃんと話がしたい。本当に反省している。でも、俺は優愛と別れたくない。あれは事故だった。もう絶対しない。だから、もう一度チャンスをくれ』とあった。


「私は事故で済ませられないよ」


男子は浮気するものだと分かってはいた。だけど、健介の事を私は信じ切ってしまっていた。


同じ大学、同じ学科、同じサークル。何かと接点があり、趣味も合う私達はすぐに意気投合し、出会って3ヶ月で恋人同士になった。


明るくて友達が多くていつもふざけてばかりいる健介といつもクラス内の大人しめなグループにいたような私が付き合うなんて最初は思いもしなかった。だけど、向こうからやたらと話しかけてきて、遊びに行く機会も増えて、だんだん健介の派手めな友達とも仲良くなっていって。私自身も彼に恋して変わっていった。


でも、最近は仕事のせいでお互いすれ違っていた。私は完全週休二日で夕方には帰れるのに対し、彼は仕事が忙しく、最近では土日に休めなくなっていて、会える時間は本当に少なかった。同棲しているにも関わらず。忙しい振りして昨日の彼女と会ってた可能性もあるけど。


「もう、だめなのかな……」


一人になると、涙が止まらない。だめだ、ちゃんと寝よう。軽く寝て琥珀が作ってくれた朝食食べて琥珀を待とう。私は再び眠りについた。


「ん……」


再び目覚めた時には大分体が楽になっていた。


「砂糖水効果……? 」


私は起き上がり、琥珀が用意した朝食にありつく。


「確かに綺麗に焼けてる……かな? 目玉焼き」


にしても、あの子は変わり者だ。よく知りもしない女を匿うとか。女好きな感じでもない。部屋を見る限り、女物が見つからないから彼女はいないのかもしれない。かと言って、あんな美少年を女子がほっとくとも思えない。


まさか……?


「結婚詐欺だったりして! 」

「えっ!? 」


朝食を食べてから電話で高校時代からの親友である梨々香に全てを話すと、彼女は彼を結婚詐欺師だと言い放った。


「20歳だよ? 」

「分からないよ? 童顔な20代後半かもしれないじゃん」

「そ、そう……」

「早くそんなとこ出て行って、うち来なよ? 優愛」

「でも、鍵が……」

「大丈夫じゃない? 空き巣なんて滅多に入らないし」

「でも、一応お世話になってるし! 結婚詐欺じゃないただの良い子だったらって思うとね。ちゃんとお礼を言ってから出て行きたい」

「分かった。でも、やばいと思ったらすぐ逃げなよ? 」

「う、うん」

「健介くんの事……許せないかもしれないけど、優愛がまだ気持ちあるならまだやり直せると思うよ? 」

「えっ? 」

「あたしも一回浮気されたし。でも、今は上手くやってるから。彼が浮気したのってあたしが暫く海外留学でいなくて寂しかったかららしくて。思い出すと腹が立つけど、事故だったって言い聞かせたよ」

「そ、そっか。私はまだ、どうしたら良いか分からなくて」

「優愛、健介くんが初めての彼氏だもんね。仕方ないよ。また後で家でちゃんと話聞くね」

「ありがとう! また、連絡するね」


梨々香との電話を終えると、私はテレビを見ながら琥珀の帰りを待つ。ちゃんと説得しなきゃ、あの子を。


彼が帰って来たのは12時過ぎだった。


「ただいま……」

「お、おかえりなさい」

「良かった。逃げてない」


い、息切らしてる!?


「は、走って来たの? 」

「うん。早く、会いたかったから」


やっぱり結婚詐欺!? 台詞が際どいよ。


「あ、あの! 私、そんな貯金無いから! 結婚詐欺したいなら他を当たって! 」

「結婚詐欺……? 」

「そ、そうなんじゃない? 」

「違うけど」

「えっ! 」

「吐こうとする優愛の背中さすったり、ベッドに運んだり、砂糖水作ったり、朝ご飯作ったり、そこまでする結婚詐欺っている? 普通の結婚詐欺師なら優愛みたいな女、面倒くさいって騙すの諦めるかも。失恋したてだし」


さらりとひどい事を言ってる。


「ご、ごめんなさい! すごくお世話になってたのに」


やっぱり吐いてたんだ、私。記憶無いけど。


「良いよ。責任とってくれるなら許す」

「い、いやらしい願いはだめだよ? 」

「そういうの求めてない。一緒に暮らすって話の続きだ」

「えっ! 」

「新しい家、見つかるまでで良いから」

「どうして、そこまで……」

「誰かの温もりが欲しいから」

「えっ……」

「このまま一人暮らししてたらお前長生き出来ないって友達に言われた」

「ど、どうして? 」

「去年の夏、ひたすらコンクールに出す絵を描いててご飯食べるの忘れてたら夏バテで気絶して救急車で運ばれた」

「えっ!? てか、コンクールに出す絵って? 」

「俺、美大生だから」

「も、もしかして……壁にあるこのひまわりの絵って….…」

「俺が描いたやつ」

「て、天才画家….…」

「誰か一緒ならご飯もちゃんと食べられるし、掃除もできるから。お願い。だめ? 優愛」


琥珀は私の手を取り、聞く。


「え、えっと……」

「成瀬琥珀さんが熱中症で亡くなられました。まだ20歳でした。成瀬さんは期待の画家として期待されており……」

「わ、分かった! 家、見つかるまでだから! 」

「やった」


彼はにっこりと笑う。


「何かしたらすぐ警察呼ぶからね? 」

「大丈夫。ちゃんと良い子にする! 」

「なら、良いけど」


つい、流されてしまった。でも、この子が私を助けてくれたのは事実なわけで。何だかほっとけない雰囲気があった。年下だから弟感覚かもしれないのだけど。


「お昼ご飯、食べよ」

「ま、待って! 君が作るの? さっき冷蔵庫見たら全然物入って無かったけど」

「忘れてた。最近、カップ麺生活で卵と野菜もさっきので最後なんだった」

「りょ、料理しないの? 」

「このカロリーフレンドで去年は一夏過ごしたり」


琥珀はカロリーバーを見せ、言う。


「だ、だめだよ! 栄養失調になるから! 」


やっぱり、この子には管理する人が必要な気がする。というか、何でこんな子を一人暮らしさせるんですか、親御さん。


「とりあえず、外食? 」

「待って。私、昨日の服のまま……」

「じゃあ、お家に着替えに行く? 」

「そうしたいかな。必要な物持たないで出て来ちゃったし」


あの家に帰るの気が引けるけど。


「じゃあ、行こう。優愛んち行った後、ご飯」

「えっ? 一緒に来るの? 」

「逃げられたらやだから」

「私、誘拐された人みたいだね」

「彼氏いたら怒ってあげる」

「余計ややこしくなるからやめて! 」

「じゃあ、外で待ってる。お願い。俺、お腹空いたし」

「分かった、分かった! 」

「やった」


なんか、変な子に懐かれてしまったな。昔、拾った猫にちょっと似ているような?


「二駅先だったんだ、優愛んち」

「ちょっと時間かかるかもしれないから日陰にいてね? 熱中症になっちゃう」

「分かった」


マンションの前に着くと、私は琥珀をマンションの前に置いて行き、部屋に向かう。


嫌だな。帰るの……。いたりしないよね?不安な気持ちで私はエレベーターを使って5階へ上がる。


鍵を開け、中に入ると人の気配は無かった。


「必要最低限の物だけ仕舞おう。スーツケース、スーツケース」


寝室に行くと、私は胸が痛むのを感じた。昨日の光景がまた頭に浮かんで来て気持ち悪くなる。


「早く、出なきゃ」


私はクローゼットから適当に服や下着をどんどん詰めて行く。


「あとは携帯の充電器と靴と化粧品諸々かな……」


もう、戻れないんだろう。健介が別れたくないとしても、私はまた一緒に暮らせる自信が無かった。彼を見る度、きっとあの光景を思い出す。私は生活する上で必要最低限とする物だけを全てスーツケースに詰めてから着替えると、逃げるように部屋を出た。テーブルに彼から貰ったネックレスを置いて。


「君はどこから来たの? どこの子? 」


マンションを出ると、琥珀が猫と遊んでいるのが見えた。


「こ、琥珀」

「優愛。お疲れ様」

「日陰にいなって言ったのに」

「猫、見つけたから。後で描こうかなって。暫く遊んで頭に焼き付けて描く」

「常に絵の事を考えて生きてるんだね」

「そうでもない。たまたま今は良いモデルがいただけ。他に今、考えたのは優愛が大丈夫かなって事。8割ぐらいその事考えた」

「えっ……」

「大丈夫? 」

「へ、平気! 」

「本当? 」

「うん、大丈夫」


しっかりしなきゃ。もう良い大人なんだし。


「ご飯、食べよう。美味しい物を誰かと食べたら悲しい事も少しは忘れられるってお父さんが言ってた」

「良い、お父さんだね」

「うん。もうこの世にはいないけどね。お父さんもお母さんも……」

「えっ! 」

「交通事故。俺だけ助かったんだ。今は叔父さんと叔母さんからの援助とアルバイトで生活費を補ってる」

「アルバイト……? 」


アルバイトはちゃんとしているんだ。じゃなきゃ、生活出来ないもんね。


「うん。絵画教室の先生」

「お、教えてるの? 」


マイペースの塊みたいな子だけど。


「うん。たまに先生の話わけわかんない言われるけど、結構続いてるバイト」

「さすが美大生……お父さんとお母さん、亡くなったのって……」

「小1の時。旅行の帰り道だった。大学入るまではずっと叔父さん達の所」

「そっか……辛かったね」

「もう結構経つから大丈夫。でも、年を重ねれば重ねるほど、自分は一人だなって思う。友達はいる。けど、先生も友達も皆、俺を天才呼ばわりして一線引いてる部分があって。叔父さん達も優しいけど、本当の親ではないから」


この子はまだ若いのにずっと全部を一人で背負って生きていたんだ。


「温もりが欲しいって言ってたのはそういう事だったんだ」

「うん」

「ごめん。琥珀のが私よりずっと大変だったんだね」

「ううん。俺は大丈夫。ただ、ちゃんと話しておきたかった。優愛が俺にぶちまけたように俺も。結婚詐欺って疑われたままはやだったし」

「も、もう疑ってないから! 」

「優愛は何が今、一番食べたい? 」

「えーっと……お肉! がっつり食べたい気分」

「分かった。じゃあ、美味しいハンバーグ食べに行こ」

「う、うん! 」


彼氏とあんな事があったばかりなのにもう違う人と暮らすなんてって側から見たらおかしな話かもしれない。だけど、何故かほっとけなかった。この子が。多分、弟感覚……?


拾われたのは私なのにね。でも、一人でいるのが怖かった。友達にも甘えられる気がしなくて。私は強がりだから。


でも、不思議だ。初めて会ったこの子といると、何か安心する。一瞬、忘れられる。逃げてるのかな、私……。


嬉しそうに歩く彼を見ながら私は複雑な気持ちになっていた。


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