第六章 ルーズの記憶

ルーズの記憶1









 翌日。龍はエリスと悠鳥に魔法の使い方を教えてもらっていた。この世界は、電気も火も全て魔法なのだ。ただ、水道だけは家の下を通っているため魔法ではない。キッチンで蛇口を捻れば水だって出てくる。

 5センチ程の大きさの魔法玉にそれぞれの属性の魔力を入れておくものだ。これは、所持していれば数度だけ戦いでも使用することが出来る。

 ただ、家庭で使うのが本当の使い方だ。炎や雷などそれぞれの魔法玉に一種類だけ入れることが出来る。未使用の魔法玉であれば、どの種類でも構わないのだが、一度魔力を入れてしまえば同じ魔力しか入れることが出来なくなる。

 家に炎や雷などの魔法が使える者がいれば、ひと月に一度魔力を入れれば良い。しかし、使える者がいない場合は、誰かに頼むかお店で購入しなければいけない。たとえ使えても、ひと月も使えない場合が多い。そのため、購入する人が多い。魔力の大きさによって、使える長さが異なるのだ。そのため、自分で魔力を入れてもひと月もたないことが多い。

「龍の部屋の電気がつかないの。だから、これに雷の魔力を込めてくれる? 別に光の魔力でも良いのだけれど、貴方の練習も兼ねて今回は雷にしましょう」

 そう言ってエリスは、龍の右手に魔法玉を乗せた。それは、うっすらと黄色い。

 魔力を込めてと言われても、龍はやり方が分からない。それどころか魔法の使い方が分からないのだ。サトリは炎や雷は使えると言っていたが、まだ一度も使えていないのだ。

 右手に乗せられた魔法玉を黙って見つめてみるが、何も変わらない。安全を考えて、天井まで吹き抜けであるリビングでやっているのだが、魔法玉に変わった様子はない。庭があれば良かったのだが、この家には玄関を出て数段の階段の横に花壇があるだけで、魔法の練習が出来る場所はないのだ。家を出れば、すぐにメイン通路。横に並び建つ家にも庭はない。

 ソファで本を読む黒麒。ユキと九尾の姿で白美は窓から入る太陽の光で、日向ぼっこをしている。立ったまま様子を見ている悠鳥とは違い、エリスはソファに座って黒麒が淹れたコーヒーを飲んだ。

「……これ、どうすれば良いんだ?」

 見つめ続けても変わらない魔法玉に溜息を吐いて、そばで立っている悠鳥へと視線を向けて言った。もしかすると教えてくれないという考えもあったが、今回はどうやら教えてくれるようだ。

 それを待っていたかのように悠鳥は自分の右手を持ち上げた。人差し指と親指で同じような魔法玉を持っていた。しかし、その色は薄い赤だった。色からすると炎の魔法が込められているのだろうと分かる。

「この魔法玉は、この家のキッチンで使っているものじゃ。今朝使って、魔力がなくなってしまったのじゃ」

 器用に指の上で魔法玉を転がす悠鳥に、思わず感心してしまう。

 ――コイロールみたいだな。……コイロールってなんだ?

 思ってから不思議に思う。以前にも思ったことだが、知らないことを龍は知っているのだ。記憶が戻ってきているらしいが、重要でもなさそうな記憶ばかりが戻ってきているようだった。

「さて、この魔法玉を見とれ」

 手のひらに乗せた魔法玉を龍が見やすいようにと、少し高く持ち上げた。それはゆっくりと色を変えていく。薄い赤だったはずの魔法玉は濃い赤へと変化していた。

「まずは炎をイメージして、手のひらの上に灯す。でも手のひらには魔法玉があるから、それに閉じ込めるの。龍は炎じゃなくて雷をイメージして」

 ソファに座ったままのエリスが説明をする。悠鳥の場合は、自分の炎を魔法玉の中に出現させ、それを閉じ込めたということだろう。龍も雷をイメージしようとして、サトリの言葉思い出してエリスへと問いかけた。

「俺の魔力って、黒だけど大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。悠鳥がいないときは、他の人に頼んでるんだもの。魔力の色は関係ないわ」

 それなら大丈夫かと思った龍は目を閉じた。雷をイメージするが、落雷や稲妻が思い浮かぶ。たとえ、このような力が使えるのなら便利だが、リビングでは危険だ。静電気を思い浮かべる。落雷とは違い、威力は小さいが、静電気も充分威力はある。痛いと思う程の効果はあるのだから。

 一度では出来るとは思えないが、魔法玉の中に閉じ込めるイメージを頭の中で描く。魔法玉の中でバチバチとなり続ける静電気がイメージ出来ると、右手へと意識を集中する。イメージだけではなく、現実にするために。

「それが出来なければ、龍さんの部屋は今日も真っ暗ですね」

 本から視線をそらさずに言う黒麒の言う通りなのだ。龍の部屋は夜に電気がつかない状態なのだ。今龍が持っている魔法玉も、龍の部屋のものだ。

 意識がなかったときは、夜に部屋へ訪れる場合は悠鳥の炎や、エリスの光の魔法で明るくしていたのだ。今まで使っていない部屋だったため、電気がつくようにはしていなかった。そのためずっと夜は暗いままだった。

 別に龍にとっては不便ではなかったのだが、やはり明るい方が良い。龍の赤い瞳は、暗くても僅かな光を集めるため、少し暗い程度だが見えるのだ。だから龍にとっては不便ではなかった。しかし、用事があってエリスが部屋へ訪れることがあれば不便だ。そう考えると、電気が使えた方が良い。

 イメージしたまま、右手に集中する。目を閉じているため、変化があったのかを見ることは出来ない。しかし、右手のひらに乗せている魔法玉が徐々に熱を持ちはじめている気がした。時間が経つにつれて、熱さが増していく。

 目を開けて確認すると、魔法玉は黄色く輝いていた。輝いているため、中がどのようになっているのかは分からない。小さく息を吐いて力を抜くと、魔法玉の輝きはおさまった。中を見ると、小さな稲妻が動いていた。

「1回で出来るなんて凄いじゃない。今度から電気は龍に頼めば良いわね」

「妾がいない場合は炎も頼むかの」

 魔法玉を覗き込みながら言う2人。誰もが一度で出来ると思っていなかったに違いない。龍の手のひらから魔法玉を手に取ったエリスは、そのまま階段へと向かって行く。

 龍の部屋へ行くのだろうと思い、悠長とともにエリスを追いかけた。思っていた通りついて行くと、エリスは龍の部屋へと入って行った。天井から吊り下げられている照明の下で立って2人を待っていた。

「取りつけも、取り外しも簡単だから」

 そう言ってエリスは照明へと背伸びをしながら手を伸ばした。照明のくぼみに音がするまで魔法玉を押しつけてから手を離した。すると、伸びていた照明を吊るす線が短くなり、天井ギリギリで止まった。

 魔法玉を外すときは照明へと手を伸ばせば自動に下りてくる。魔法玉をつかんで軽く引っ張れば取れる。しかし、電気を消してすぐに外そうとすると、火傷をするため時間が経ってから外さないといけない。

「電気をつけたり、消したりするのは照明の下で手を叩くだけ」

 両手を一度叩くと電気がついた。外がまだ明るいため分かりにくいが、それでも部屋を充分明るくしている。そしてもう一度叩くと、電気が消える。

 机の上に置いてある電気スタンドにも同じように、魔法玉がついている。悠鳥がそれを取ると投げ渡す。受け取った龍は、先程と同じようにイメージしながら、右手に集中する。今度は目を閉じずに、開いたまま魔法玉を見つめる。

 ゆっくりと魔法玉の中に稲妻が見えてくる。小さい稲妻が徐々に大きくなり、色も黄色へと変わっていく。稲妻が大きくなると、熱くなり輝も増していく。

 先程と同じくらいの熱さと輝きになると、悠鳥が手に取って電気スタンドへと戻してしまう。近くで手を叩き、照明がつくのかを確認するともう一度叩いて電気を消した。

「これが出来るなら、普通に魔法が使えると思うわ」

「でも、本を読んでも使えなかったんだぞ?」

「人間と魔物が使う魔法は違うからの。本で知識を得るのは良いことじゃ。ただ、人間と同じ魔法は使えると思わないことじゃ」

 たしかに、白美や悠鳥が使っていた魔法は、エリスや他の人たちが使っている魔法とは違う。人がそれぞれ自分に合った魔法があるのと同じように、魔物にもそれぞれ使える魔法があるのだ。

 しかも、人間とは違う魔法。魔物が使う魔法は似ているものはあっても同じものはなかった。だから、龍が本を読んでいても魔法を使うことが出来なかったのだ。

「白美と悠鳥みたいに、自分だけの魔法があるのか?」

「そうじゃ。魔法を使える魔物は皆そうじゃ。同じ種類の魔物じゃと、同じ魔法を使えることが多いがの」

 龍にも歴代の『黒龍』が使っていたかもしれない魔法が使えるということだ。戦いで使うには、何度も試さなくてはいけないのかもしれない。

 もしくは、実戦で突然使うことが出来るかもしれない。龍が使う魔法は人型と獣型で使うことが出来るのか。それとも、どちらかでしか使えないのかは分からない。

 ただ、魔法玉に魔力を込めたのと同じで、使うにはイメージが必要となることは龍には分かっていた。使い慣れてしまえば、イメージせずとも使うことが出来るようになるだろう。

 部屋から出ていくエリスと悠鳥に、龍は部屋の電気が消えていることを確認してから扉を閉めた。電気代というものはないが、使い過ぎれば自分で魔力を込めなくてはいけないのだ。

 自分の部屋の分だけではない。他の部屋の分も今度からは龍がやるのだ。魔力を込めるだけでも疲れていた龍だったが、慣れてしまえば無駄に魔力を込めることもなくなり疲れることもないだろう。

 階段を下りてリビングに戻ると、黒麒はソファに座ったまま本を読んでいた。だが、白美は暑くなったのか日影へと移動していた。ユキは日向ぼっこをしたままだ。

 エリスも先程まで座っていたソファに座る。ソファに座らずに立ったままの悠鳥と龍は窓に近づいた。通りは疎らではあるが、仕事をしている人や買い物をしている人が歩いている。

 歩く人を見ながら、ルイットからの帰りに倒れていた男を龍は思い出していた。アレースは自警団の人に何かを頼んでいたが、それは何だったのだろうか。それを知ることは出来るのか。

 もし突然、何者かにエリスが刺されそうになったら。そう考えるだけで龍は冷や汗が流れてきた。自分が必ず近くにいるとは限らないのだ。近くにいても絶対に守れるとも限らない。

 この間のように龍はアレースの近くにいる可能性だってある。自分が近くにいなくても、黒麒たちがいる。彼らがエリスを守ってくれるだろうと思うが、もし知っている誰かが動かなくなるのは怖いと思った。

 そのとき、脳裏によぎる見知らぬ映像。それは龍が覚えている両親の姿だった。だが、両親は赤く染まっていた。何故、そんな映像が浮かぶのか。龍には分からなかった。

「龍!!」

「あ……」

「大丈夫か? 顔色が悪い」

 左腕を強く掴む悠鳥に大きく名前を呼ばれて、意識が現実へと戻ってくる。先程の映像は何だったのかと思いながら、顔色が余程悪いのか、悠鳥はゆっくりと龍をソファに座らせた。

 そこは先程まで黒麒が座っていた場所だ。寝ていた白美とユキも心配そうに龍へと近づいてくる。冷えた水をコップに入れて持ってきた黒麒に、コップを手渡されて龍は一口飲んだ。水が体に染み渡る感じがした。

「大丈夫?」

「ああ、さっきよりは平気だ。ありがとう」

 心配そうに尋ねるエリスに言うが、まだ顔色が悪いのだろう。全員が龍から目を離すことはなかった。龍は右手で目を覆うと小さく息を吐いた。

 魔力を使ったことと、見知らぬ映像を見たからなのか、体から力を抜いた龍はソファに座ったままの体勢で眠りについた。寝息を立てる龍の熱を計ったり、顔色を伺うエリスたちがいたが、龍は目を覚ますことはなかった。座っている龍の横にユキが乗ると、龍の膝に起こさないようにゆっくりと顎を乗せて目を閉じた。

 エリスたちも龍のそばを離れず、ソファで本を読んでいた。白美は龍の足元で体を横たえて目を閉じていた。また様子がおかしくなったら、起こせば良い。そう考えていた。







******







 日が傾き始めたとき、エリスは誰かの声で目を覚ました。いつの間にか眠っていたようだ。それはエリスだけではなかった。本を読んでいた黒麒も悠鳥もソファに背を預けて眠っていた。

 一度伸びをして、誰の声だったのかと確認する。誰も起きておらず、寝言だったのかと思ったが、1人ソファの陰に座っている人物に気がついた。覗いてみると、それはアレースだった。

 疲れている様子のアレースはソファの陰で目を閉じていた。先程の声はアレースのものだったのかもしれないと思ったエリスは、座っているアレースの横にしゃがみこんだ。

 眠っているわけではなかったようで、声をかける前にアレースは目を開けた。何度か瞬きを繰り返してエリスへと視線を向けた。眠ってはいなかったが、眠りかけていたようだ。

 疲れているだけではなく、とても眠そうにしているアレース。昨日はルイットから帰ってきて、家の前で馬車から下りたエリスたちと、そのまま乗っていたアレースは別れた。馬車に乗ったまま帰ったのかと思っていたのだが、違ったのだろうか。

 もし帰っていないのだとしたら、何処へ行っていたのだろうか。ルーズ・カスネロアについて調べていたとでもいうのだろうか。

 ルイットから帰ると、ルーズ・カスネロアは心臓を刺されて殺害されていたのだ。彼は裏切り者の可能性があっただけに、驚きを隠せなかった。いつもローブで顔を隠しているため、身分証明書により殺害されたのがルーズ本人だと知ったのだ。

 誰に、何故殺害されたのかは分からない。だが、即死だったのはアレースも龍も分かっていた。正面からだろうと、背後からだろうと心臓を一突きにした者の腕は確かだろう。

「もしかして……起こしたか?」

「いいえ。アレースはどうしてそんなに疲れているの? 眠そうよ。もしかして、昨日帰ってないの?」

「ああ。自警団本部に行ってから、メモリア先生のところに行ってきた」

 メモリア先生。その人はヴェルリオ王国では唯一人の記憶を見ることの出来る人間だ。脳に損傷さえなければ、死人であっても記憶を見ることが出来るのだ。

 他者に自分が見た記憶を見せることも出来るため、場合によっては事件が起こったときに、記憶を見せることもある。それにより犯人を特定することが出来るのだ。

 ルーズが死亡していた現場から立ち去るとき、アレースは自警団の男に言っていたのだ。検死に立ち会わせてもらうこと、そしてルーズをメモリア先生に診てもらうようにと。

 検死も大事だが、ルーズがもしかすると犯人を見ているかもしれないのだ。見ていればすぐに犯人を捕らえることが出来る。もし見ていなくても、ルーズが直前に会っていた人が誰だったのかさえ分かれば、何か犯人に繋がる手がかりになるかもしれない。

「それで、どうだったの?」

「まず、ルーズの検死結果からだ」

「何か、分かったのか?」

 欠伸を噛み殺して龍がソファから立ち上がり言った。2人の話し声で目を覚ましたのではなく、気配で目を覚ましたようだ。黒麒たちも目を覚まし、ソファの影で座っていたアレースをソファへと座らせる。疲れているアレースに冷たい水を持ってきた黒麒は手渡すと二歩下がった。

 渡されたコップに口をつけて、アレースは一気に水を飲んだ。コップをテーブルに置いて、アレースは自分の周りに集まっているエリスたちを見た。そして、真っ直ぐ龍の目を見て言った。

「とりあえず、龍。お前は連行される心配はないから安心しろ」

「そういえば、そんなこと言われてたな」

「疑われてたの!?」

 疑いをかけられていたことを誰にも言っていなかったので、エリスが驚いて龍へと詰め寄った。本人も忘れていたので、笑って誤魔化した。

 これにはエリスも溜息しか出なかった。主のいないところで犯人かもしれないと疑われ、しかもそのことを知らされていなかったのだ。常に一緒に行動していたと証言出来たエリスには何も。

 それには理由がある。一緒に暮らしている家族や身内の証言だと、嘘をついていたり口裏を合わせている可能性もあるので、信用されないのだ。それを知っていたためアレースは言わなかったが、龍は疑われていたことを忘れていただけだ。最初は言わないでおこうとは思っていたが、自分のことだからなのかすぐに忘れてしまったのだ。

「まあ、良いわ。それで、どうして龍は疑いが晴れたの?」

「検死の結果、刺し傷は刀じゃなくて剣だった」

 剣は両刃で真っ直ぐの形状をしている。しかし刀は、片刃で反りのあるものだ。刀を刺すことも出来るが、どちらかというと斬撃攻撃がメインだ。しかし、剣は刺突に適している。

 ルーズの刺し傷から両刃である剣だと分かったのだ。そのため、刺し傷であっても龍が持つ刀傷ではないと分かったのだ。

 他に傷もなく、刺し傷のみで倒れたということも分かった。前からであろうと、後ろから刺されたであろうと、ルーズを殺した人物の剣の腕は優れているようだ。

「良かったの、刀で」

「そういう問題なの?」

 笑いながら疑いが晴れたことを喜ぶ悠鳥だったが、三本の刀を持ってきたのは彼女だ。何か言いたそうに白美が悠鳥を見たが、僅かながら、刀を渡したことに責任を感じていたのかもしれない。

「それで、他には?」

 メモリアの元へ行っていたという話しは、起きたエリスしか聞いていない。そのため、ユキはそれだけではないだろうと問いかけたのだ。

 しかし、アレースはユキの問いかけには答えなかった。それもそのはず。ユキはエリスのおかげで長寿となったが、ただのユキヒョウなのだ。

 エリスと魔物たちには言葉が通じるのだが、人間には通じない。そのため、アレースにはユキが何かを話しているようには聞こえないのだ。ただ一声鳴いたようにしか聞こえない。

「メモリア先生のところでは何をしていたの?」

 言葉が通じないユキの代わりに、メモリアの元へ行っていたと話しを聞いていたエリスが問いかけた。足元によってきたユキの頭を撫でながら、アレースはその問いかけに答えた。

「検死が終わってから、ルーズをメモリア先生のところへ連れて行ったんだ」

 そう言うとアレースはポケットから5センチ程の玉を取り出した。それは透明で、向こうの景色が見えている。

 その玉は魔法玉の一種。ただし、魔力を込めることは出来ない魔法玉だ。この魔法玉は魔力を込めるのではなく、映像を録画することが出来る。1時間以内であれば音声と共に録画をしておける。しかし、値段が高いのだ。そのため、使用する人は少ない。

 それだけではなく、一度しか録画することが出来ないのだ。消すことも上書きすることも出来ないので、あまり需要がない。

 それでも必要となる場合があるため、未だに売っている。現に、アレースが持っているのだ。

「これには、メモリア先生が見せてくれたルーズの記憶が録画されている」

「私たちに見せても大丈夫なんですか?」

「ああ、撮る前に許可はもらった」

「妾たちには見せても良いと……」

 だが、他の人たちに見られては困る。そのため、リビングが見える窓全てに手分けをしてカーテンを閉める。隙間無く閉めると、夕方ということもあり、リビングは暗くなってしまう。

 口で説明するのではなく、映像を見せるということは、犯人が映っていたのだろうか。それとも、手がかりが映っているのか。

「自警団の方にもこれと同じものが渡っている。先に調べてくれているはずだ」

 調べているとは何なのか。まだ映像を見ていないエリスたちには分からなかった。だが、それを見れば分かるのだろう。

 アレースは持っていた魔法玉を転がらないようにテーブルに置いた。二、三度転がって止まったそれを見てからもう一度カーテンを見た。

 本当に隙間がないかの確認と、魔法を使って覗いている者がいないかを確かめているのだ。覗きの魔法を使っている場合は、使用場所が歪んで見えるのだ。

 だが、それもない。エリスたちに視線を向けてから、置いた魔法玉を軽く人差し指で三度叩いた。すると、魔法玉が薄く光りだした。上へと光りの線が伸び、横へと広がっていく。そして、広がった光りへと映像が映し出されたのだ。







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