至上の主上④

「もう耐え切れねー、残ったのは開戦時から大幅に減って約700だ。中央から来た帝国兵は襲撃前に引き上げちまった、殆ど戦ってたのは武装した国民だ。それに対して敵は続々と増えている、どうするのだ愚王!」


両手を机に叩き付けてそう声を荒らげるのは、猛牛の様に興奮した状態のパラザリアで、帝都の復興作業から防衛戦に参加していた為、その体は傷だらけで治療すらしていなかった。

パラザリアの言う通り、このままいっても圧倒的な数の前ではジリ貧で、いずれすり潰されるのを待つしかない。


「私は、この帝都を守る事が使命だ。だから何があってもこの帝都を敵の手に渡すわけには……」


「俺の話を聞いてたのか愚王!」


「だが私は! 何よりも尊い国民の命をたっとぶ。国は国民なしでは成り立たない、殿軍をここに置いて後は撤退させる。皆は1度私兵の元に戻り、志願者を募ってほしい」


「話にならねぇ、殿軍なら俺らに任せろ。だがお前の私兵を全部貸せ、パレスにパラザリアありと言わせてやるよ。帝国の為に働くんじゃねーからな、俺はとっととパレスに帰ってそれからお前を殺して王になる」


「なら、総督である私も参加しよう。アイラスとジャンヌは東のヨルムと合流して撤退、陛下に報告して待っていてくれ」


「このアイラスもお供致します」


「私もクライネ様のお世話係です、最後まで職務を全うします」


「アイラスもターニャも撤退だ、パラザリアと私以外は全員な。500の兵は必ず生きて返せ、1000まで減ってしまった国民もだ。今すぐ撤退を始めてくれ、もう街の壁にまで迫って来ている」


事の重大さを分かっているのか、2人は潔く撤退の準備を始めたジャンヌと違い、頑なに私の隣を離れようとしない。


「おい女狐とクソガキ、王は俺が叩き潰すまで殺させねぇ。とっとと尻尾巻いて逃げろ」


「こんな脳筋に守られずとも私は負けないさ、安心して私が帰った時の出迎えの準備をしてほしい」


拳を自分の手のひらに叩き付けたパラザリアを睨みながらも、2人は自分よりも彼が強い事を分かっているからか、敢えて何も言わずに私に背を向けてジャンヌの撤退準備を手伝う。

その後ろ姿をしっかりと焼き付けてパラザリアの肩を叩くと、カッカッカッと笑った後に顔を引き締め、手甲を付けてがちんと鳴らして並んだ殿軍の前に歩み出る。


「まずは礼を言う! 敵は既に5万は優に超える大軍勢となった。だが生きて帰れる者は諦めるな、走り続けるのだ! 行ける所まで俺と行き、然るべき場所で膝を折れ。ここはお前らの死に場所ではない!」


この殿軍に志願した者の半分以上はパラザリアの私兵で、誰ひとりとして撤退する部隊にはラーラルド領の者は居なかった。このラーラルド領の残った86人に加えて、ラルクフォーレ領の10人が加わった殿軍の顔付きは穏やかだった。最期だからと言う理由などでは決して無いだろう。

パラザリアの鼓舞の言葉の中にあった通り、誰ひとりとして生きる事を諦めていないこの顔は、故郷を憂う、家族を想う者の帰る時の、そんな穏やかな顔なのだから。


「敵が街に入った、指揮はパラザリア・ラーラルドに一任する。全軍私に続け! このクライネが先陣を切る。誰ひとりとして置いて行くな、隣の者を助け手を取り合え。出撃!」


「行くぞォォォォォ!!! 王に武功を独り占めさせるな!」


翼を広げて飛び上がった私に続いてパラザリアが雄叫びを上げ、96騎の騎馬隊を率いて夜の軍勢に真正面からぶつかる。

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