王権喪失⑥
訓練を再開してから約10分後、1番最初に息を切らした私に合わせて走っていた所為で、ジュンの姿がもう見えなくなっていた。
「すみません足を引っ張ってばかりで、せめて魔力が使えたら良いんですけど」
途中にある休憩所で女性に水を貰い、布で汗を拭きながら座ると、メイルが何かを思い出すように頭を搔く。
「魔力なんて俺たちには使えねえよ、大体貴族か王族とかしか豊富な魔力持ってないし。俺たちは約20年掛けても追い付かない、これは使えたら使っても良いルールなんだけどな。今頃貴族の御子息さんたちはゴールしてるだろうな」
「魔法なら私が使えます、それで行きましょう!」
「本当か? 貴族みたいなのが使えたら助けるけどさ」
「あまり信じてないと乗せてあげませんよ。力を貸して下さい……アイネさん」
アイネのドラゴンの時の姿と体を運ぶ優しい風をイメージして魔力を満たすと、大きなドラゴンが形を成して、目の前で力強く羽ばたく。
私の魔法を見るのが初めてじゃないアイラスはあまり驚かずに、私の後に続いてドラゴンの背に乗るが、口を開けて呆気にとられているメイルたちは、硬直したまま微動だにしない。
「乗らないのですか?」
「いや、乗るけどさ……デルタイルの王族にも負けない魔力量と魔法の技術。こんなの出来るやつなんて片手の指で数えられる程だぞ。何者なんだよクライネ」
「私結構知られてると思ってたんですけど、パレス王家の第1王女でしたっけ。そして前王ですよ」
「そうなのか! マジか、めちゃくちゃ失礼な言葉使いしてた。度重なる無礼お許し……」
「今は同じ立場ですよ、隠すつもりはなかったんですけど。ごめんなさい、そういう堅苦しいのは嫌いなので。今まで通りでお願いします」
「あ、あぁ分かった。それじゃあ乗らせて頂きます、クライネ……様」
まだ遠慮気味なメイルたちをドラゴンの背中に乗せて浮き上がり、民家の上をショートカットしてジュンを探し、木陰で後ろを見ている姿があった。
既にジュンの後ろには追い抜かれた隊が多くあり、驚異的なスピードで走っていた事が分かる。
木陰を作る大きな木の隣に着陸してドラゴンを消すと、私たちに何も言わずにまた走り出す。
「待って下さい、私の魔法に乗っても良いルールだったので……」
「そんな不安定な魔法に乗れと、少し成功したからって
「少し不安定だとは思いましたが、落ちるなんて事なかった筈です」
「お前はぱっとやって魔法が成功してしまった、だから大きな失敗を知らない。失敗を知らないやつは失敗する感覚を知らない。それに気付かないのも無理はないだろう、今のお前は失敗した時必ず最善の対処が出来ない」
そう言ってまた走り出したジュンに何も言い返せないで居ると、メイルが私の肩に手を置いて控えめに笑顔を向けてくる。
「クライネ様、民から水を頂いて参りした。どうぞ喉を潤して下さい」
「ありがとうございますアイラスさん、もう一度飛んで行きましょう」
水を飲んで心を落ち着かせてイメージを強固なものにしてから集中し、もう一度アイネを
「行きましょう、あと半分ですね。気を抜かずに行きましょう」
「おう、あんなの気にすんなよクライネ。黒騎士は気難しいって有名だからな、実力で言えば帝国1だけどな」
「大丈夫ですメイルさん、さぁ行きましょう」
全員が背中に乗ったのを確認してから宙に浮かび上がらせ、大きな翼を羽ばたかせて城に向けて動き出す。
多くの民家を飛び越えながら進んでいると、ジュンが次々に順位を上げて、王族や貴族が集まる隊の次にまで順位を上げていた。
「すげぇな黒騎士さんは、ありゃ王の左腕と呼ばれるはずだわ。まぁ、王族貴族さんの隊がもうゴールしてるから4番だけどな」
「そんなに多くの貴族が居るのですか、国が大きくなるとやっぱり増えるんですね」
「おぅ、この国には27も居るんだ。多分1位は王家4姉弟と実力のある6の家、その他は魔力はあるけど差があるって程度だな」
「なら、あと1つの家は上位の隊に……きゃっ!」
突然凄まじい速度で私たちを抜き去った何かにドラゴンを崩され、地上に向けて真っ逆さまに落下を始める。
「うぉぉぉ! ヤバいぞクライネ、また出せないのか」
「イメージイメージイメージ、頭の中が真っ白に……」
「私が魔法を地上に」
「それじゃあ街の人に被害が出てしまいますアイラスさん!」
目前に迫った地面から目を背けて瞼を閉じ、アイネのナイフを胸に抱える。
「シルフィード!」
鋭い声が街の中を駆け抜けた瞬間、体が強い風に煽られて足がゆっくりと地面に着く。
「あれ……いつのま……」
「落第だ……私が居なかったらな、早く城に走れ。魔法で楽しようなど3流だ、魔法使いは結局基礎体力だ。最後の最後にへばった方の負けだ、よく覚えておけ」
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