王権喪失②

「パレス王国が国王クライネ、お招きに応じ参りました。此の度は帝都に留まらず、王城にまでお招き頂き恐悦至極に存じます」


謁見の間の玉座に腰掛ける大柄な男に低頭して感謝の念を伝え、儀式用に持ってきた普段は使いもしない剣を地面に立てる。


「面を上げられよクライネ王、此度のクーデターは大変であっただろう。到着して早々に悪いが、書状には我らに降るとあった。これはどの様な意か」


「書き綴った通り、最早王権が振るえぬ身。この身が朽ち果てるまで逆賊と戦う所存でしたが、一身上の意地で民を死なせるは本意ならず。ならばいち騎士に戻り、仕えるのもまた民を救う事になると思い参りました」


「ふむ、まずは詳細不明の巨人の撃退の際、我らが民を御守り頂いた事感謝しよう。その働きを認め、この国が貴公らを抱える事にする。歓迎しようクライネ殿、我が帝国を退けた腕は耳に入っておる、その手腕で帝国が世界を支配する力となれ」


「寛大な御心に感謝致します」


満足した様に頷いてから玉座を立ち上がった皇帝の背を見送り、立てていた剣と共に床に着けていた膝を離し、帝国騎士の案内に従って城の中を歩く。

途中何回か帝国騎士とすれ違ったが、戦争で見せていた狂気性は全く感じられず、パレス王城内と何も変わらなかった。


どこかに向かう途中でいつの間にか側近の3人が脇に控えていて、周りを警戒しながら私の後ろを歩く。


「はぁ、一国の国王に向かってなんであんなに大きな態度なんでしょうか。自国の民を助けたのはクライネ様ですよ」


「抱えてくれるだけでもありがたいです、そんな事言ったら駄目ですよナハトさん。これからは結果だけが求められますから、不服な事があっても耐えないといけないんです」


「クライネ様に降り掛かる災厄は、全てこのナハトが振り払いますから」


「また暴走されても困るけど」


「そうだよ、私たちじゃ止められるかどうか賭けだもん」


「それは……コントロールしたいけど、いやします。頑張るからクライネ様のお傍にずっと居させて下さい、あわよくばけっこぷ……」


その先の言葉を発する前にチェリーに口を塞がれ、リュリュに手を引かれてナハトから引き離される。

手を伸ばして私の服を掴もうとしたナハトの腕を、前を歩いていたリュリュが叩いて撃ち落とす。


「こちらが我々騎士の宿舎で……何をなさっているのでしょうか」


「い、いえ気になさらず。案内して頂き有難う御座いました」


「いえ、こちらこそ光栄です。次の将軍候補であったターン様を退けるだけでなく、防衛戦であったのに討ち取ってしまうなんて。憎むべきなのでしょうが、我々にとっては大きな希望となります。困った時には是非お呼び下さい」


「その時はお願い致します」


「あぁ、それが。クライネ殿は個室が用意されております、この帝国領で最高の職人に作らせたものを揃えております。是非そちらをお使い頂きたい」


「折角の好意を無下にするのは心苦しいですが、もう私はただの騎士なのです。皆さんと同じ生活をさせて頂きます」


私の言葉を聞いて困った様に頬を掻く騎士の肩に手が置かれると、いつの間にか気配も無く立っていた紫髪の少女が、親指を立てて廊下の向こうを指す。


「だ、第1皇女様。失礼致しました」


その指の差された方向に足早に歩いていった騎士を見送ると、改めて私の方に振り返り、同じ目線から私を真っ直ぐ見詰める。

どうしたら良いか分からずに視線を泳がせていると、突然翼と角が姿を現して、私の頭や背中に手を伸ばす。


「無い、同じ匂いがしたのに。龍脈もきちんとあるのに、翼と角を隠してるの?」


「えぇ……私は人間です、確かにドラゴンの知り合いが居ない訳では無いですが。第1皇女様はドラゴンなのですか!」


「……大きな力、お父様と同じ感覚。貴女は神様?」


「神じゃないです、ただの人です。あの、質問に……」


「あ、鳥さんが庭に。でも眠たい……お腹空いたかも……貴女は安寧を崩す廃墟、何も無いから何もかも持ってる。永遠が永遠である事を拒ませる事が出来る、だからお父様は欲したのかもしれない。ごめんなさい、私の所為でこんな事に」


「え、えぇ……はい。話聞いてない、何言ってるか分からない。あぁ、もう庭に飛んで行っちゃいました」


庭に降りて花を摘み始めた少女に圧倒されて、もう何を考えて良いのか分からなくなる。

取り敢えず今日は休もうと案内された渡り廊下を進み、離れにある宿舎を目指す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る