笑顔の女神④
「アイラス・ラルクフォーレ只今参上しました、遅れて申し訳ありません」
「構いません、これで全員集まりました。では、単刀直入に言います。この軍に間者が紛れ込んでいます、挙手して下さい」
皆驚いた表情を見せるが、表情が何1つ変わらないアイラスは、私の顔をただ静かに見つめる。
当然誰も挙手するはずも無いこの場は、全員が互いに疑いの目を向け、時に首を振って否定する。
「わ、私じゃないですパラザリアさん……あ、アイラスさんが怪しいですよ、前の戦争も居なかったし……こ、今回も、お、お遅かったじゃないですか。間者が居るのにも、驚かなかったですし」
パラザリアに睨まれたエレミヤが堪らず弁解するが、呆れた様子で溜息を吐いたアイラスは、剣を抜いてエレミヤの首に突き付ける。
腰を抜かしたエレミヤの悲鳴に、部屋の外で待ち構えていた私兵を引き摺って、ナハトがエレミヤに向けて私兵を投げる。
「誰もこの中に間者が居るとは言ってませんよ、証拠は粗方アイラスさんが掴んでましたから、後は貴方が動くのを待つだけでした」
「あたしが遅れた理由を教えてやろうか腰抜け野郎、あんたの私兵を全員捕らえていたんだよ。お前には勿体無い程の忠誠心だったがな」
今まで淑女を演じていたアイラスは、着けていた髪留めを外し、短く見せていた髪を解き放ち、長い黒髪を踊らせる。
圧倒的な圧力に気を失ったエレミヤの胸倉を掴み、小柄な体を思い切り壁に叩き付ける。
衝撃を受けて意識を取り戻したエレミヤは、足をがくがく震わせて必死に命乞いをする。
「何故裏切ったエレミヤ、元々興味は無かったが、この国に危険を持ち込むならその命はここで燃え尽きるぞ」
「あ、あまりアイラスさんを怒らせない方が良いですよ。食料を求めて自領に下りてきた餓狼を、素手で2匹同時に貫いちゃいましたから」
「それは言い過ぎだクライネ様、私は持っていた槍で貫いただけだろ」
「そうでしたっけ? でも丁度良いじゃないですか、偶然にもここに槍があるじゃないですか。裏切り者は処分してしまいましょう」
「腕がなるな、人を貫くのは少々骨がいる。断末魔すら上げさせずにやりたいからな」
「ほら、謝るなら今の内ですよ」
私が持っていた槍を掴んだアイラスは、柄を短く坂手持ちで握り、エレミヤ目掛けて思い切り振り下ろす。
壁を深く大きく抉った槍が砕け、それと同時にエレミヤの腰が砕ける。
槍が突き刺さる前に再び失神したエレミヤを解放して、軍服の胸ポケットから煙草を取り出す。
咥えた煙草に魔法で火を点け、機嫌が悪そうに煙を吐く。
その顔のまま私の方に振り返ったアイラスは、体に溜まった毒を抜く様に再び煙を吐き、少しずついつも通りの無表情に戻る。
「お見苦しい所をお見せしました事、心からお詫びします。この者の処罰はいかが致しましょうか」
「身柄はラルクフォーレ家に預けます、処罰も一任します。ランドル家の領地はラルクフォーレ家に、今の約倍になってしまいますが、問題無いですか?」
「あたしは問題無い、だが他の貴族がどう思うかは分からないぞ。そっちの貴族さんたちは領地が欲しいみたいだからな」
やっぱり熱が冷めないらしく、戦闘モードのままのアイラスは人差し指と中指の間に煙草を挟み、集まっていた貴族たちをぐるっと囲む。
「それは困りました、蚊帳の外にしてしまったのは申し訳ないです。ですが、1番に気付いたのは彼女です、皆さんの腕の見せ所は今からですよ」
「無論、気付けなかった私たちに批判の資格はありませぬ。なれば、この腕で王に勝利を齎すのみです」
ガルドナル将軍が拳を振り上げてそう宣言すると、パラザリアや他の貴族もそれに呼応し、捕虜の話を聞いて作戦を立て始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます