軍師誕生

戦場から帰還した後日、今後の体勢を整える為に、再び集められた貴族の顔は、不安と憤りで固まっていた。

開始直後に挙手したパラザリアに発言を許すと、私の背後に立っていたナハトを指差す。


「その娘の身柄を俺の館に預けてくれ、そいつがまた裏切れば、俺たちは確実にやられる」


「ナハトさんは裏切っていません、心の乱れによるものです。よってその意見は却下します」


「あの……僕も同じ意見です。裏切りじゃなくても、皆不安に思ってますし」


勢い良く手を挙げたエレミヤは、私と目を合わさずに立ち上がる。

そんな状況でも落ち着いた様子のアイラスが挙手すると、エレミヤは静かに椅子に座る。


「私は自治領の仕事があったので参加出来ませんでしたので、その時の状況は分かりませんが、このラルクフォーレ家で身柄を預かりましょう。第三者である私が最も適当かと」


「そう言えばラルクフォーレ家は居なかったな、貴様は戦争に参加せずに何をしていた。自治領の仕事だと? そんなもの俺にもあったぜ」


「私が頼んだものです、参加しなくても良いと私が言ったのです。こんな議論より、この国の今後の事が最優先です、それにナハトさんは大きな戦力です、犠牲を増やしたいんですか?」


「私の未熟な面が出てしまい申し訳ありませんでした、ですがクライネ様、今の発言は不適切です」


前に出て皆に頭を下げたナハトは、私に強い視線を向ける。

確かに不適切だったと思い、この場の皆に謝罪する。


ここまで静かに話を聞いていたガルドナル将軍が、大量の紙の束を私の前に提出する。

その内容を読むと、全てナハトやチェリー、リュリュの側近3人の詳細を、教えてほしいとの内容だった。


「分かりました。この3人は魔法が少し使えるだけの側近です。特に突出したものも無いと思われます、あえて言うなら、神使です」


「何らかの神の眷属だと言うのですか、ですが信じ難いですな、神とは安易にこの世に降りては来ませぬ」


「私が短い間共に過ごしていたドラゴン、あの人は神です、この3人はその神の眷属です。これで満足でしょうか」


「納得行きません、何故それ程の戦力がありながら、最前線に出さず、悪戯に民を死なせるのですか」


エレミヤは此度の戦争で出た犠牲者の名簿を机に叩き付け、私に冷ややかな視線を向ける。


「今回の犠牲者は39名です、悪戯に出している訳ではありません。必要な、尊い犠牲です」


「今、この中で死なせる死なせないの話は要らないだろ。要るのはどうやってこの国を守るかだ、もう始まった戦争で犠牲を嘆いても、潰されたらそんな事言ってられないだろ」


痺れを切らした青年は、苛立ちを隠せないと言う顔で机にナイフを突き立てると、机に地図を広げる。

地図の四隅に重りを置いて筆を持ち、今回衝突した国を囲っていく。


「俺たちは力を持たない小国だ、対して他国は少なくとも俺たちの倍は力を持ってる。今回の敵、龍人種は数は少ないが、個々の力は遥かに大きい。今回ぶつからなくて良くしてくれたアイネに感謝だ、同じく龍鱗も獣人も遥かに強い。対して俺たちは帝国には逆らえない、自国の中でも纏まれない、余程王を支える気が無いんだろうな」


「突然出てきたパッと出の力も無い餓鬼が……」


「黙ってろ頭が悪いデカいの、なら誰を頼りにするべきだ? 王だろ普通、でもその王も今は頼り切れない。でも奇襲は王のところに集中したにも関わらず、犠牲者が出たのはあんたら貴族の私兵だ。誰が犠牲を無くしたと思う? それはナハトたち3人の側近だ、なら強い奴らに頼るしかない。拘束するか前線に出すか、後は権力のあるお前たちに任せてやる」


この話の後にもう1度決を採ると、ナハトの拘束は、反対多数で無しとなった。


「では、この機会に軍師を迎えたいと思います。この青年に任せたいと思います、反対の意見はありますか?」


「謹んでお受け致します、クライネ王」


皆が黙って青年に疑念の目を向けるが、この場にそれを口に出せる者は居なかった。


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