黒雷姫⑦

話し合いの末、一向に譲らなかったターニャを含めた2人で話を聞く事になり、この話は内密にすると言う条件で進められる事になった。

杖を持ったままソファーに座った男性は、まるで御伽噺をするかの様な顔で、楽しそうに口を開く。


「彼女が神の子なのは知ってるよね? うん、知ってると思っておこう。でもね、ゼウスは正真正銘の屑野郎でね、まぁ神は大体女好きが多いんだけど、その中でも代表格な訳だ」


「クライネ様に何の話を聞かせに来たつもりですか? 殺しますよ?」


「でもゼウスはヘーラーが居ながら、他の女に手を出したのさ。それも天使に化けていた悪魔にね、その間に生まれたのがナハトって訳さ。だから彼女は一般的よりも黒に染まりやすいのさ、でも黒が強過ぎて操作出来ない状態にあってね。僕も是非見たくて来たのさ」


ターニャの言葉を無視して長々と喋った男性は、黒雷が入った瓶を掌の上に乗せ、軽く振って私に見せる。

それはナハトの黒雷と一致するもので、不思議な瓶の中で消えずに光り続けている。


「それで貴方の正体は何ですか、返答次第では返せませんよ」


「だから、今は言えないって言ってるじゃないか。でも宮廷魔術師としては置いてもらうけどね」


「勝手に決めないで下さい、素性も知れない人を置く訳にはいきません」


「それを言うなら君も同じじゃないか、他の皆も詳しくは分からないだろう?」


「私はクライネです、アイネさんから貰ったこの名前があります。私を知るにはこの名だけで十分です」


「あははっ、トールが君に名前をね。いや、ごめんごめん、笑う気は無かったんだけどね。あの冷徹野郎が人の子に名前なんてね、君は余程面白い玩具なのかな。今度聞いてみよう」


「クライネ様に対して失礼だと思わないんですか、もう我慢の限界です」


立ち上がったターニャを手で制してソファーに座らせ、仕方無く名前だけでも聞き出そうと、腰のナイフを抜いて首に当てる。

全く動じずに笑顔な男性の顔を見ると、フードの奥に隠れていた目は、予想以上に綺麗だったが、異常な程に色々なものが混ざって見えた。


「名前だけでも名乗って下さい、呼ぶのに不便です」


「そうだねぇ、なら僕の事はリーザって呼んでくれても良いよ」


「分かりました、ではリーザさん。仕方がありませんが、真実を語ってもらう為に宮廷魔術師として認めます」


「うんうん、君は運が良いね。何せ僕が宮廷魔術師として働くんだから、この国は安泰さ」


ナイフを仕舞ってリーザを部屋から追い出し、残ったターニャにまずは謝る。


「すみません、勝手に認めてしまって。でも、私は真実が知りたいんです」


「クライネ様が決めた事なら異論は無いですよ、私がこの命に変えても守ります。なので今日は私もこの部屋に居ても良いでしょうか?」


「脱がさないなら良いですよ、ターニャは暖かいので助かります。夜になると冷えますからね」


「はい、炎の部族としてクライネ様を温めます。火照らない程度にですが」


アイネのナイフを机に置いてベッドに寝転がり、隣に寝転がったターニャの腰に手を回して目を瞑る。

私の首に手を回したターニャに軽く抱きしめられ、長旅によって疲れた体を休める。

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