今までの繋がりに別れを

城の前に集まった騎士たちに囲まれ、王が乗る立派な装飾が施された馬車に入る。

初めて街に降りる緊張感で顔が強ばっていたのか、列の一部に加わったエルを見ると、いつもの笑顔を向けられる。


分隊長の男に注意されたエルを見て自然と笑みが零れて、少しだけ緊張も和らいだように感じる。

ゆっくりと進み出した馬車に揺られて街に出ると、城の前に国民が列を成して集まっていた。


意外にも全員が歓迎と言う感じで、誰も非難や中傷を言葉にしない。

花道の両方に向けて手を振っていると、人混みの中でアイネに肩車されたアリスが手を振っていた。


「アリスさん、アイネさんにヨルムさんも。駄目ですよ今現れたら、決意が鈍るじゃないですか」


クライネは胸に入った皹から目を背けて、何事も無かった事にして手を振り続ける。

振り向いてもっと姿を見ていたかったが、もうこの国の王として受け入れる道を選んだ決意が崩壊する事を最も恐れた。


心を強く持って三人の横を通り過ぎ、遂に街を一周して漸く城に到着する。

大きく息を吐いて馬車を降りると、何処からか迷い込んだのか、青年が黒い本を読みながら歩いて来る。


「あの、此処は……」


く馬車から降りクライネが話し掛けた途端、青年の前に獅子の形の光が形成され、さっきまで乗っていた馬車に突っ込んで粉々に粉砕する。


「敵襲だ! たったひとりだが魔法を使うぞ、安易に踏み込むな!」


「お怪我はありませんか王よ、こちらにお逃げ下さい」


すぐに飛んで来たエルに連れられて後ろに下がり、多数の騎士に囲まれた青年を遠目から見る。

自分の置かれた現状にやっと気付いた青年は、漸く慌て始めて両手を上げる。


「捕らえるだけにして下さい、命まで取る必要はありません」


抵抗もせずに地面に組み伏せられた青年は、必死に抗議をしながら騎士に引き摺られていく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る