ひと騒動

右も左も分からない新王に早速舞い込んだ公務は、街に出て国民によく顔を見せるというものだそうだ。

少し前まで視界に入るのも不快と言われていたのに、今度は私を見たいが為に人が集まるのは、環境の激変もあって、クライネは何とも言えない変な気持ちになる。


私を忌み嫌っていた村の人たちはもう皆居ない、この世界に少なくとも私をそういう目で見る人は存在しなくなった。

それでも人が死ぬのは喜べない、それが自分と関わっていた事なら尚更だ。


こんな時アイネならどう声を掛けてくれるか想像するが、我に返って甘えた思考を頭から叩き出す。

何故アイネが出て来たのか自分に問うが、別に大して深い意味は無いと結論を出す。ただ私を食べなかっただけの、唯のお人好し。


少しだけ、少しだけアイネならどう言ってくれるかもう一度考えると、有り得そうな三つの答えに辿り着く。

その一、『おぬしの所為では無い、当然の報いであろう。痣を作らせ粗末な服しか着せず、当然の様に虐げる。愚か故の滅びだ』


その二、『深い関係に無かった者の死で悲しむ、それは唯の公共的優しさに過ぎん。おぬしが悲しむ必要が何処に有るか』


その三、『ほれ、また新しい服を作ってみたぞ。ワンピースはどこかの馬鹿に駄目にされたからな、何時までも浴衣は大変であろう』


三人目の少し話からズレた馬鹿っぽいアイネの手を取って、一人目と二人目をどろどろに溶かす。

全てアイネが言いそうだと、クライネは自分の中でひとり勝ち誇りながら歩いていると、前から来た誰かにぶつかってしまう。


「あわゎゎゎ、すみませんごめんなさい申し訳有りません深謝してますので何卒御容赦下さい」


クライネは首が取れそうな程の勢いで頭を下げ、反射的にそんなに言葉が出た自分に驚く。

息継ぎも出来ずに息を荒らげて頭を下げていると、


「こっちこそ悪かったな、爪にゴミが入って取ってたんだよ。やっぱ伸びるの早いと困るな、あっははは」


そう言って声を上げて笑った騎士の右手を見ると、指先から血が流れ出ていた。


「あの、血が出てますよ」


「え? うっわ本当だ、深追いし過ぎたクッソ。やっちまった」


「衛生兵衛生兵、早く呼ばないと」


偶然近くを通り掛かった騎士に助けを求めると、騎士はクライネを担ぎ上げて何処かに走り出す。

顔面蒼白で必死に走る騎士は、あっという間に階段を駆け下り、廊下の奥の部屋に飛び込む。


「王が体調不良を訴えて、先程上の廊下で……兎に角早く見て下さい」


息を切らしまままクライネをベッドに下ろした騎士は、軍医に掻い摘んで経緯を話して部屋を飛び出て行く。


「え? えっと、私じゃなくて騎士の人が」


「目を見ます。はい、有難う御座います」


説明虚しく突然貧血なのかチェックされて、されるがままに診察を進められる。


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