7話ー3 オペレーション D・A・M・D



『航空輸送部隊は補給のためイースト-2【新大湊市】へ。その後北極海経由で英国へ向かいます。』


 ウエスト-1【新呉市】にて、各部隊の発進準備がとどこおりなく進められる。

 航空部隊――思考に思考を重ねた作戦方針……その運用上三機の軽輸送艇を機軸とした、宗家及び国防省直属の機動兵装が離陸準備に入った。


『各魔法少女は海上部隊にて待機し――指定した地点へ到着30分前にはそれぞれの持ち場へ。しかし……導師側の襲撃状況によっては、いつでも出られる様怠り無く――』


 海上部隊――こちらは目的地まで誘導する護衛船がすでに出航している。

 しかし、それらは大きく左右に広がる異様な陣を取る。


『さらにこちらの最大戦力は、限界まで【ヤタ天鏡】による偽装空間に姿を封印します。その際巡航速度は遅くなる上、空間内は位置把握が出来ませんから……航空部隊との連絡は密に。いいですね?』


「はい、れいさん!了解しました!」


 一見何もない様に偽装した護衛艦中央部――偽装空間内にて海洋を進む、宗家側の最大戦力……周囲を囲む護衛艦は、その船舶が突入せぬ様に配され警戒を担う。


 その最大戦力内――ブリーフィングルームに待機中の金色の王女テセラ小さな当主桜花

 艦の総監を担当するは、八汰薙やたなぎクールな兄シリウ――臨時にて指名されるも、この男は総監すらもそつなくこなす理論派……その点においては不安すら皆無と言えた。


「ねえシリウさん、このブリーフィングルームもそうだけど……外を見られないの?」


「すまないなテセラちゃん。【ヤタ天鏡】展開中は、外界に対する偽装空間形成の精度を落とさないため――艦体上の各設備を統一場粒子クインテシオンに相当する反統一場ネガ・クインテシオンフィールドで包んでいる。それらが発する強電磁界の影響で、艦外をモニタリング出来ない状態なんだ。」


 最大戦力の要である、偽装空間を生む守護宗家の秘術――【ヤタ天鏡】により空間的に断絶されているとは言え……前閉されたに息苦しさを感じた金色の王女。

 何気ない質問を八汰薙やたなぎのクールな兄へ投げかけた。


 そして返されると――クールな兄に抱いていた憧れが崩れ去る、を王女は目撃する事となる。


「本来宇宙空間は元より高次元航行をも可能とする技術――艦内側から確認される形だけとなる窓枠に関しては、最低限それらを優先して建造……竣工を見た艦であもあり――」


「旧軍艦の基本設計通りの意匠を、可能な限り残す外観とは対照的に――艦内は近未来……いやむしろ純粋にL・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーを意識して――」


「要はねテセラちゃん、外観上の窓はではなくて、内装上は全部になってるの。つまり、☆」


 求めてもいない詳細な説明で、疑問符に脳内を占拠され始めた金色の王女がまん丸な目を見開いて小首を傾げ――

 それを見た小さな当主……何かのスイッチでも入れたかの様に語り出した、八汰薙やたなぎのクールな兄の言葉へ被せる様に乗り出した。

 大幅に簡略化した説明へと、小さな当主――その翻訳で、ようや納得と同時にガクッと肩を落とす王女。


「【ヤタ天鏡】っていうのは、宗家のヤタ家でも奥義中の奥義なんだ。でも普通はを偽装し見えなく出来るの。けどこれは――それも海上だから姿を見えなくするために大変なの。」


「そうだテセラちゃん、海上というのは波の影響によるピッチングやローリングも考慮の必要を擁し……海面に発生する波をも取り込む偽装空間に全長200メートルを越えるこれだけの移動物体を――」


 と、小さな当主のの最中――理論の説明で割り込むクールな兄へ……可愛い当主がついに

 そして放たれるは、金色の王女がささやかな日常の中――いつも目……それが炸裂する事となる。


「ちょっと……シリウさん!私が分かりやすく端折はしょって説明してるの!その!あと割り込まないで下さい!」


 あのクールが服を着たと誰もが言わしめる存在へ、ぺしっ!ぺしっ!と繰り出されたからの可愛らしいチョップ。

 予想だにしない攻撃のお目見えに、流石の王女も盛大に噴出ふきだした。


「ぷっ……あははははっ!し……シリウさんってもっと冷静沈着って思ってたのに……。……あはは……なんかロウさんみたい~~!」


 ツボに嵌り爆笑の渦中へ誘われた王女。

 まさかの事態――……にあの可愛いチョップの応酬が繰り出された瞬間を堪能し、ひとしきり笑いこけてしまった。


「――テセラちゃんに大笑いされてしまうとは……。」


 その状況に素でショックを受け打ちひしがれる、——さらにご立腹の当主様が止めをさしにかかる。


「シリウさんは論理の説明で口を開くと、難しい——というよりから……。」


 諸手を上げ——肩を竦めたヤレヤレ感を全面に押し出す小さな当主のお言葉は、クールも砕け散った八汰薙兄シリウに突き刺さる。

 クサナギ家ご令嬢である小さな当主も、決して脳筋などではない——宗家のご令嬢として、求められる教養は充分な迄に身に付けている。

 だが八汰薙やたなぎのクールな兄の理論に裏づけされた思考は、会話に嫌いがあり——苦手な者には正直つらいと評判である。


 小さな当主のお言葉は、中々のダメージを与えたのだろう——すっかり落ち込んでしまった、に歩み寄る金色の王女。

 情けない事にその兄は、初等部の学童に励まされると言う醜態を晒してしまう。


「ごめんなさい……そんなに落ち込むとは思わなかったから……。でもやっぱりシリウさんとロウさんは、若菜わかなちゃんの素敵な家族ですよ?」


「こら!テセラちゃんも私達の大切な家族でしょ!自分だけ疎外そがいしないの☆」


 クールじゃない兄を慰めた王女の言葉が、肝心な本人を除外していた点に反応した小さな当主は訂正を求めて王女に抱き付いた。

 王女も等しく大切な友人であると言わんばかりに……そして大切な家族の様に——


『その辺にして置きなさい……。もう充分緊張は解けているでしょう?』


 日の本がかつて誇った最大戦力。

 その艦内に流れる、和気藹々わきあいあいの空気に包まれたそこへ――見かねた作戦統括者ヤサカニ 零より釘が刺される。

 事の状況を、通信回線切り替えを忘れたまま和気藹々に流された一同……全てを耳にしながら――あえてそれを止めなかった疑似霊装機動兵装ヤタガラス搭乗中の作戦統括者も、それが王女の心に必要と感じていたのであろう。

 

 頃合を見て釘を打ち込むヤタナギの裏当主からのお声は、一同が気を引き締めるのは充分であった。

 そして一行はしばしの海の旅路を程良い緊張の中で進んで行く。



****



 北極圏を抜ける英国までの道のりは非常に長い物です。

 標準を下回る巡航速度ではありますが、それでも海上自衛隊さんの護衛艦レベルで北方へ向けてひた進む船——アメリカとロシアの国境は、すでに国防省を代表する【日の都の暁ライジング・サン】になぞらえる方の手まわしで航行も問題ありません。


「わあああぁ!何これ……ホテルみたい☆ねえねえ!桜花おうかちゃん……洋服もいっぱいあるよ~~!これ着てもいいの!?」


 全長が200メートル以上を誇る、日本を代表する昔の戦艦?だそうですが、私はあまりそういうのは分かりません。

 分かりませんが、一つだけ言える事——それは私達の為に誂えられた個室が、まるでの様な感じにただ驚いたと言う事です。


「ちょ……テセラちゃんはしゃぎすぎ……。ここは私達で使っていいって言われてるから、それ全部着てもいいよ?ただし、戦闘の可能性がある時はつつしめってれい叔母様が——」


 ……ですよね~~。

 でも、ホントに広くて二人で使うには勿体無いぐらい。

 こんなちょっぴり大人向けの装飾に包まれた部屋で、旅行気分をつつしめと言われても……(汗)

 そんな思いを抱きながら——部屋に備わる色取り取りの洋服で、思考と視線を埋め尽くされていました。


「少ししたら艦内の主要施設の案内するからね?」


「あれ?桜花おうかちゃんはまた呼出し?」


 実は先ほどから、小さな当主様は何かとあちこちから呼び出されていったり来たりを繰り返してました。


「そうなの~~(泣)一応この艦は私の力が動力の鍵になるから、その調整とかテストとかで航行中に呼び出されまくり……ちょっと疲れた……(泣)」


 なるほど、です。

 どおりで帰って来るにつれ笑顔に陰りが見えると思ったら――そして今、とってもげっそりしている訳なんですね。

 桜花おうかちゃん……女の子がそんな顔しちゃダメだって……(汗)


「私が車椅子押そうか?」


「えっ!?いいの、悪いな~~おねだりしたみたいで~!では、お願いしま~す☆」


 何となしに出た言葉に、ぱあぁっ!と表情が輝き出す可愛いお友達。

 そんな明らさまな――何なら、もっと早く言ってくれれば良かったのに……。


 でも、今は気の抜けぬ輸送作戦任務中―― 一度襲撃の気配があれば、有無を言わさず最前衛に立たなければならない私。

 せめてもと皆が気を使ってくれてるのは明白です。

 だから私も……少しだけ旅行気分を満喫したら、気を引き締めなくてはなりません。


 そして私は、クサナギの小さな当主様のシステム調整やテストに付き合って後――この船の主要施設をご案内されちゃいました。


「ちょっと、桜花おうか殿?!ここに案内するのが遅いんちゃう!?」


 そんな案内で最後にされたのが、この船の機関室――私は直接関係がないけど、きっと連れてかないとうるさい人が居るって言われて、今まさに捕まっちゃった所です……(汗)


 外見上昔の軍艦の意匠を残した雰囲気とは程遠い、最新のオーバーテクノロジー感待った無しな薄い青の隔壁に覆われた巨大な空間――この艦における主動力である機関の一つが鎮座した機関室。

 傍らに、それらを制御するパネルを幾層に重ねる制御区画――お目当ての方が、今も機関制御を部下と思しき男性陣と勤しんでいました。

 その制御区画で無数の宙空モニターに映るゲージの様な物が、この艦が発する命の息吹を数字の羅列へ置き換えるさま――そして外観の意匠との不思議なギャップ……人類の生み出した新旧技術の融合が、協奏曲を奏でいる様にも思えます。


「おおおぅ……これが王女様か!お初やな……あたしは機関長の真垣 華那美まがき かなみ。カナちゃんさんと呼びやっ!」


 ……何故、ちゃんの後にさんを……??


「ごめんね、カナちゃんさん……調整とか忙しくって。テセラちゃん……この人は宗家技術開発局のお抱え技術屋集団――〔真鷲組ましゅうぐみ〕三代目で跡取りさんなんだよ?」


 ……ああ、カナちゃんさんでいいんだ……(汗)

 無造作に伸ばした茶が多分に混じる黒の御髪は、仕事モード言わんばかりに荒々しく首の両側へ束ねられ――この制御区画で陣頭指揮を執る勇ましき女性……作業服であるも、女性らしい清潔感は働く現場女性を地で行く感じです。


「へ……へぇ~。技術屋集団って何を――」


「ちょっ!?だめ、テセラちゃん……それは――」


 えっ、あれっ?まずい事聞いちゃったの……?

 ふとカナちゃんさんを見ると……あっ(汗)――


 そのフレンドリー感が怒涛の勢いで押し寄せるカナちゃん……さん、のポロリと零したささやかな疑問――すかさず当主様が慌てて私を制しにかかるも――

 気付いた私の目に飛び込むのは、良くぞ聞いてくれましたと――正に今よりに入る棟梁さんの姿でした。


「ふっふっふっ…………。ええやろええやろ、教えたる!それはな~――」


 ――そして――

 ……カナちゃんさんは、この後技術屋集団が太陽系に名だたる組織で、宇宙船開発・建造を初め――果ては、宇宙に関わる多くの施設建造に関わるプロ集団であると……それはもう延々えんえんと語ってくれました……(泣)


「王女さんも、あたしの話が聞きたい言うんやったら、いつでもここに来な!心行くまで相手したるから!」


「すいません……もう結構です……。」と喉まで出掛かって堪えます。

 たぶんこのセリフは言ってはならない気がしたので……(汗)





「ふぇ~……もう耳にタコが大量繁殖しちゃう……。」


 ようやくの様な棟梁さんから解放された私達――

 一緒に一回りしたクサナギの小さな当主様――その機関砲の直撃で、いよいよゲッソリに拍車が掛けられてしまい……心持ち回復のため早急に部屋前に戻って来ました。

 そこでちょうど鉢合わせる八汰薙のクールなお兄シリウさん――聞き及んだ内容に、まさかのゲッソリが伝染してしまいます。


「テセラちゃん、艦内見回りは済んだ――って、桜花おうかちゃん顔、顔……(汗)もしかして、入れてしまったのかい?」


 うなれながらうなずく私と桜花おうかちゃん。


「……そうか、それは難儀なんぎな……。オレでも彼女の話相手は骨が折れるんだが――」


 ……シリウさんが骨を折ってしまうんだ――どれだけなんですかカナちゃんさんって(汗)

 私もクールなお兄さんの言葉で、嘆息レベルも最高潮を記録してしまいました。


「それはそうと、英国に到着した際の事についてだが――先行しているアーエルちゃんの部隊との調整の件で話がある。ゆっくり休んでからでいい……夕刻6:00にブリーフィングルームへ来てくれるかい?」


「はい、分かりました。では後ほど――」


 まだ充分ある時間まで二人でひと時を過ごした後――私達は定刻、指定場所に向かいます。

 先行したアーエルちゃんは、きっといつもの感じだと思うけど――もしかしたら導師の部隊と会敵かいてきしてるかも知れません。

 そう思うと自然と心が引きまりました。

 

 いよいよここからが、私達の命運を賭けた戦い――最初のプランの始まりとなるのです。

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