4話ー5 惹かれあう意志
東首都沿岸部——宗家施設が集約される区。
宗家の結界が周囲を囲み、重要会議にも利用されるビル施設。
赤煉の魔法少女に受けた傷が回復してから程なく、零さん達宗家の面々とそこへ向かいました。
会議室へ到着後、用意された各椅子へ腰掛ける宗家の皆さん。
その視線が、今から語られる貴重な情報を洩らすまいと私へ集約され――
気を失っていた時、ジョルカさんに聞いたお話――私の名の元となったシスターテセラの悲しい物語を、ゆっくりと紡ぎ始めます。
――ある魔界の世界の中で、二人の魔王がいました。
一人は王族に生まれ元々の地位が確立された少女。
もう一人は自らの力でのし上がった孤高の少女。
二人は幼い頃からの旧友でもあり、互いに
でもありました。
ただ、その二人は魔界で多くの魔族達が恐れおののく程の凶悪
な魔王として知られていました。
いつしかその魔王達の力は、止め処もなく強力な物となり下層
どころか、上層の世界にまで影響を及ぼすほどに成長して行きま
す。
すると、見かねた最上層に君臨する六大魔王から、彼女らは危険
すぎると非難を受け始めます。
拡大した事態に重い腰を上げた魔界の神は、一度頭を冷やす様に
と彼女達を魔族の故郷から遠く離れた光の大地へと送りました。
二人の魔王は、光の大地で自分達の力が思うように振るえず
を舐めさされたそうです。
ようやく光の大地での、力の扱いにも慣れた二人は今度はその光
の大地でも自らの力を試そうと意気込みました。
そんな中、光の大地のとある森で一人の少女と出会います。
その少女は光の神を信仰するシスターでした。
それは、二人の魔王にとっては相反する存在。
自分たちの存在を知られぬ様、その少女に殺意を向け滅ぼそうと
しました。
ところが、滅ぼすどころかそのシスターの少女は、まるで慈愛の
女神の様な笑顔で二人の魔王を迎えます。
あまりの出来事に、魔王は毒気が抜かれ少女の迎えをただ受け入れ
てしまいました。
それからと言うもの、シスターの少女は自分が寝泊りする一人住ま
いの小屋へ、二人の魔王を迎えては食事やお話に花を咲かせていま
した。
すると、今まで多くの魔族達に恐れられた凶悪な二人の魔王はいつ
の間にか、そのシスターの少女と笑顔で打ち解ける程の変化を遂げ
たのです。
そんな三人だけの穏やかで暖かい日々が続く中、シスターは二人を
ある場所へ招待したいと切り出しました。
シスターは二人の魔王を山小屋よりさらに奥、山の中腹にある大き
な洞窟へ連れて行きます。
さすがの魔王も警戒し、元の魔王の素顔でひとまず着いていきます。
その洞窟の中――奥深くで二人の魔王は目にします。
そこには大小様々な種類の魔族――と言ってもそれらは地上に住む
希少な種ばかりで、その者達はそこで静かに暮らしていました。
大きな疑問が立ちはだかり、シスターへ——
「これは何だ?」
と尋ねます。
するとシスターは——
「この子達は、地上で心無き人間に追われ、住みかを失い逃げおお
せた子達です。」
と言ったのです。
そこへまたしても浮かぶ疑問に、もう一人の魔王が尋ねます。
「君は神に使えるシスターなのにどうして?」
と。
その問いにシスターの少女は——
「私は神の慈愛に仕えています。その慈愛は
弱き者であれば分け隔て無く差し伸べられる救いであると思ってい
ます。」
と答えたそうです。
二人の魔王は、そのシスターの言葉を聞いた時、敗北を悟ったそう
です。
それは自分たちと変わらぬ年の少女が、光に属する人類でありなが
ら闇の魔族にまで慈愛の手を差し伸べる、計り知れない器を持って
いたから。
それ以来二人の魔王はシスターの少女と、今までとは明らかに違う
唯一無二の親友となったそうです。
……けれど——
しばらくして——魔界より一度二人の魔王を戻す必要があると連絡
を受け故郷へ帰郷しました。その帰郷した魔王を見て、多くの魔族
らが
かつては凶悪を絵に描いた様な魔王である少女達。
それがまるで慈愛と強さを兼ね備えた戦いの女神の様な姿となって
戻ってきたと――
魔界の情勢が安定し、二人は揃って魔界の神へ打診します。
「もう一度光の大地へ行かせて欲しい。会いたい友人がいる。」
と。
その言葉に、魔界の神は驚き――そして喜んで二人の魔王が光の
大地へ向かう事を承諾しました。
――そして、二人の魔王が最愛の親友と再び会えると、心を弾ませ
て最愛の友の住む大地のあの山小屋へ向かいました。
そこで二人の魔王が見た物——無残に破壊された山小屋と山奥へ繋
がる
二人は息の続く限り、山奥へ駆け出しました。
その
そして二人は洞窟へたどり着きます。
その洞窟の入り口――まるでその奥へ、何人も侵入させまいとするか
の様に巨大な十字架を突き立て、
してしまいます。
二人の魔王は哀しみの表情のまま、横たわるシスター――再会を待ち
侘びていたはずの、親愛なる友人をそっと抱き上げます。
「——ミネルバ……さん……、ジョルカさん……。み……みんなは…
…無事、でしょうか……。」
己を構成していた鮮血に塗れながら、自分よりも守り続けた小さき魔
族の事ばかり気遣う少女。
その瞳はすでに何も映っていません。
わずかな消え入りそうな声で、シスターは二人の最愛の親友へ最後の
言葉を残しました。
「おねが……い。にん……げんを——じんる……いを……にく……ま
……ない——」
遥かな空を仰ぐすでに光も届かない哀しげな
かれ――シスターはその命の灯を閉じました。
それから——魔界に戻った二人が哀しみの中、絶望に打ちひしがれて
いた所に、程なく心の傷が癒される報が入ります。
それは、魔界王族に生まれた少女の妹が誕生した、と言う報でした。
二人の魔王はその報でようやく、絶望から少しだけ前に進む事が出来
たそうです。
そこで——二人の魔王はその小さな王族の少女に、最愛の友人の様な
慈愛を宿したいと考えたそうです。
二人は願いの中――生まれた王族の少女が少しだけ成長した時、力と
記憶を封じ光と闇を
名を名付けたのです。
――
これが、私が聞いたお話です。
長い様で、ほんの
「ありがとうテセラ……。多く
ヤサカニ裏当主さんがまたもお約束の、難しい顔をしています。
私の話はジョルカさんが届けてくれた物、それを踏まえて考えると、自分でもその状況が見えて来ました。
「……あの……もしかしてジョルカさんは……、導師ギュアネスが——」
すると
「あなたも……そう
それでも今この場に集まる面々——
一向に見えてこない状況の進展に、一同沈黙してしまいます。
そんな中私は、きっと大事であろうもう一つの件――これもジョルカさんから得た依頼……と言うべきか、沈黙の中にある
「——あの……ジョルカさんから私に一つお願いを頼まれたんです……!」
「お願い……?」
私はそのお願い——ジョルカさんの切なる思いであろう案件を伝えます。
「……導師ギュアネス側に居る赤煉の魔法少女——レゾン・オルフェスを……救って欲しいと……。」
すると、それを聞いた
悪化する事態に、増加の一途を
もはやどこから手を付けて、何が解決出来るのか――
でも、それが一つの光明になると信じて、私は
「姉さん……その件、テセラちゃんに任せてみては……?」
予想外の所から援軍が現れます。
長身で長髪——切れ長の瞳に丹精な顔立ち。
いつも宗家紋様が入った特注のファスナー制服に見立てた方術服を着込む姿は、学園の中でも人気の的でこんな人がお兄さんだったら悶絶してしまうと、評判(基本女性から……)な人です。
「もちろん、導師の罠の線も捨て切れない。けど——このままでは何も進展しないうちに、両世界の崩壊を迎えてしまうよ?」
シリウさんはロウさんと違い、感情で動く事はあまりありません。
その変わり——徹底した理論により状況を常に論破するため、時には冷徹に映る事もあります。
ですが——ロウさんもシリウさんもやっぱり
彼女の助けになりたい――その一心でサポートしてくれます。
「ちゃんと私も何かあれば、カグツチ君と駆けつけますよ?」
そして、このクサナギ裏門当主の
なんだか、流れのままお友達になってしまいましたが、
「分かりました……。レゾンと言うあの魔法少女は――テセラ、あなたにお任せします。——ただし、無茶はしない様に……いいですね?」
ようやく意が通り、
この地球という世界――私はもはや、かけがえのない故郷の様に思えてなりません。
そして、生まれ故郷【
****
予想外の敵に撤退を余儀無くされ、私は
神の使いから受けた、強烈な加護の力で焼き切られた傷も——強まる再生力ですぐに塞がった。
傷の再生もそこそこに——その足で私は牢獄に繋がれてなお、鋭い眼光を放つ
なんでも、あの魔王が私の食事配膳を望んでいるのだとか……。
あの【
「食事だ……。そもそも何故私がこんな事を……余計な事をしてくれるな……。」
眼前の迫力衰えぬ魔王に、思わず悪態が出る。
それにしても、この牢獄は相変わらず逃げられる気がしない。
どれだけ強力な次元結界が張り巡らされているのか、想像もつかない。
「お~……待っていたぞ!いやなに、あの【
「面白み……。」
流石に機嫌が斜めに倒れかける。
その様な理由で私を呼んだのかと怒りが沸く。
だが——実の所この魔王は案外……気に入っている。
口が裂けても言えないが……。
「それで……どうだ?」
「はぁ?」
意味が分からない——主語を言え主語を……(怒)。
「あの少女と……王女と戦ってどうだと聞いているんだよ……。」
王女——せっかく傷が癒えた所にその名前を出すのかこの魔王は。
収まりかけていた憎悪が、再び首を持ち上げる。
「……その様子だと——やはり力が制御出来なくなって来ている様だな~……。」
……何を言っている——制御だと……?
「ふざけるなよ……?自分で言うのも何だが、先のは完全に己が
自分で言って気付く。
対等……?最初は明らかに王女の
それがあちらのミスでギリギリの勝利だった——それがなぜ?
目の前の魔王の言葉と、自分のこれまでの状況――何か違和感がある。
「……いい機会だ、教えといてやろう……。お前の力が増大しているのは王女の力が関係している。——当然だ……お前と彼女はこの宇宙の法則上――存在が予見されるも、未だ発見されぬエネルギー形態——」
「言わば魔界でも、歴史上における最初の奇跡——【
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