魔法少女戦録 天楼のテセラ

鋼鉄の羽蛍

――覚醒の章――

ープロローグー

 0話 宇宙より来る者




   ――それは大地と宇宙そらが人の手で繋がった時代……。


           人の世界が無限であったのを知った世代。


                 たった一つの出会いから始まりました――




 太陽系第三惑星――そこは地上と宇宙それぞれに住む多種多様な種族が抗争と共存の歴史を繰り返す星。

 多くの犠牲は新たな世界のいしずえとなり、ようやくひと時の安息の時代へと移ろうとしていた。

 だが、この世界には一つの大きなへだたりを持つ決して相容れない物が存在した。

 それは「正」と「負」――この世界で言う所の【 正物質 ポジティベート・マテリアル】に当たる人類と【 反物質 ネガ・マテリアル】に当たる反人類である。


 かつて科学によって予見された反人類は、すでに宇宙創成の時代より存在し、それらの存在はいにしえより【魔族】と呼称されていた。

 それらは数多あまたの伝承ににおいて、架空の存在であり――世界にとっての闇であり悪しき者と語り継がれている。

 が、本来の魔族の姿は量子論上における宇宙の反面であり――科学的見地からしても古来より重要な要として位置づけられているのだ。


 魔族の特徴として、架空の伝承になぞらえる様に【 正物質 ポジティベート・マテリアル】――光とされる物との不用意な接触は、物理学的な危険をはらむとされる。

 しかし、伝承などでの過度の穿うがった見方は、後付けされた内容と考えられる。


 それを踏まえても、物理学的な危険に関しては魔族にとっても知るところであり――古来より人類とは、時間的あるいは空間的な必要最低限の距離を保つ事で共存と言う形をとっていた。

 

 そんな中……変わり行く時代と世界に適合すべく、いにしえの時代から管理運用される超技術――【L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジー】と同時代に存在する魔導技術が魔族と言う種を支える。

 いにしえよりその技術にて――限定的にではあるが直接人類との交流を行う者が、地球をもう一つの故郷として捉える時代の到来を呼んでいた。


 ――そして、その移り行く変化の時代――

 

 魔族と言う種に大きく関わる一人の少女が、人類をも巻き込む大事件へと巻き込まれて行く事となる。



****



 地球大気圏上……一機の小型宇宙艇――地球では見られない形状に魔術処理が施された外装は、魔族側の運用機である事を思わせる。

 その機体下には何かしらの運搬物であろう楕円系コンテナ、それも少々大型の物が装備される。


 その船はすでに大気圏進入を終え――高温に熱された機体が高空の冷気で急速冷却されると通常飛行に移った。

 と、さらに遥か後方からそれを追うかの様な、四機の戦闘艇――しかしは武装を展開し、今しがた大気圏進入を終えたばかりの宇宙艇に狙いを定め威嚇砲撃を開始した。


『各機に告ぐ――地上付近での交戦は導師様の計画に支障が出ます……。故に上空での捕獲が大前提です。』


『了解……。』


 リーダーと思しき者が無機質且つ感情希薄な声で統率すると、同じく感情希薄な返答で残りの機体操縦者が対応――即座に編隊を組む四機の戦闘艇。


「ここまで来て追いつかれるなんて……!」


 戦闘艇に追われる宇宙艇コックピット内で、年の頃十二歳前後の少年か――訪れたる危機に焦りをあらわにする。

 一見普通の姿だが何か違和感がある少年――すると彼の手が、ノイズの走った様に明滅する。

 違和感が示す彼の正体――それは人間・魔族のいずれでもない存在、高密度の量子情報生命体である。


「まずい……、もう嬢王様にたまわった魔力が……!」


 量子情報生命体である彼は宇宙――太陽の惑星系列内のとある場所から訪れた。

 【魔界】――正式名称を【天楼の魔界セフィロト】と言う。


 時間的・空間的に隔絶され――誰もがその世界を遥か遠い異世界と信じて止まない。

 しかしその真実――【天楼の魔界セフィロト】は太陽系主惑星系列の一つにして、暗黒惑星の名で歴史から姿を隠していた星に従えられる。


 周囲に時間的……空間的に隔絶する超魔導結界【ネガ・ヘリオスフィア】を持ち――外界から魔力に通ずる物以外での認識を阻害する事で、地球の歴史上においても発見される事は無くそこに存在していた。

 主惑星【ニュクスD666】――暗黒惑星の名を持つ主星の衛星軌道上、魔族によって建造された魔族の真なる故郷。

 ――魔導連結ソシャールと呼称する超巨大コロニーこそが魔界の姿なのだ。


 有機生命体ならざる少年は【天楼の魔界セフィロト】において極めて強い力を持つ存在――詰まるところの【魔王】により遣わされた、使い魔と言う認識が妥当だとうである。

 天の見えざる世界セフィロトにあって、少年が口にした嬢王様と呼ぶ者が彼の主なのだろう――だがその主に託された何かしらの使命も、今追撃者の手により果たせぬ恐れが生じ始めていた。


「――なら……最後の手段!」


 主の使命完遂に全てを懸けた少年――宇宙艇下部、運搬物が内包されしコンテナを切り離し自動推進にセットする。

 しかし、追撃者の狙いはまさにそのコンテナの内容物――すかさず追撃者のリーダー格であろう者は、やはり無機質な声で各機へ指令を飛ばす。

 が――


保護させるつもりか……。各機【クロノギア】奪取を優先……奴の機体は――』


「うわあああーーーっっ!」


 追撃者がコンテナに狙いを変更した刹那――機体を反転させて捨て身の特攻を仕掛ける少年。

 爆風と轟音――しかし少年の判断も虚しく、追撃者機体から放たれた砲撃が先行させたコンテナに被弾。

 内包されし無数の物体――少年が主より受けた使命における、極めて重要な物であろうが、地球各地へと散らばっていく。


 【クロノギア】――それは宇宙のエネルギーを限りなく自然の状態で長い時をかけ、厳選された固有の物質に凝縮させる事で生み出される物質。

 【震空物質オルゴ・リッド】の総称であるそれらは、人工的にも生成可能であるが安定性を得る変わりに多様性を失う。

 一方――自然生成で生まれた【震空物質オルゴ・リッド】では、宇宙空間に既存する様々な種のエネルギーに転用が利く多様性を持ち極めて強力である。

 強力であるも、半面非常に不安定な性質――さらにそこへ、希少で同じ物を意図的に作り出せぬ特長を持つ。

 【震空物質オルゴ・リッド】は宇宙社会――こと魔族社会においてもその希少さは群を抜く。


 その物質の特徴を鑑みれば、後者の自然生成による希少なる超物質クロノギアが今正に追撃者の標的であり――少年が、使命を賭して運んでいる物の正体であるのは明白であった。

 

 追撃者への特攻も、かろうじて爆散を免れ――推力を失い落下を始める、量子体の少年が搭乗する宇宙艇。

 ノイズで明滅する立体モニターに、非常アラームが鳴り響くコックピット内――追撃者の状況も満足に確認出来ない。

 主よりたまわった魔力の枯渇こかつにより、薄れ行く意識の中で少年はつぶやいていた。


「――殿……どうか、ご無事……で――」


 自由落下にその身を任せる様に墜落する小型宇宙艇――ただ堕ち行く先に、広がる青き大地。

 目指した目的地が、彼の視界に映る事無く迫り――その光景が同時に通りがかる一人の少女の視界に映っていた。


 そして……時が刻まれ始める――

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