豆大福

タチバナエレキ

豆大福

学生時代からの友達の実家が「猫の途切れない家」だ。

常に1~2匹の猫を飼ってる。

例えば死んでしまったり何かの弾みで家出してしまっても、すぐ知り合いから譲って貰えたり出先で偶然里親会に出くわしたりする。

ちなみに今飼っている猫は「大福」という。


写真を見せて貰ったんだけど、大福という名前だから白地に黒の模様でも入ってるのかと思ったら全然違った。茶色かった。


友達曰く、ある日のことだ。

その友達のお母さんは比較的メルヘンな人で、天気が良いから庭にテーブルと椅子を出して大福を食べながらお茶をしようと思いカーテンを開けた。

するとそこに瀕死の猫が倒れて居たのだと言う。

だから名前は大福となった。


お母さんはとりあえずその瀕死の猫を動物病院に連れていったという。

首輪もしていなかったし状態から恐らく野良と思われたが念のため動物病院と自宅の門の外、友人や親戚の家などにもお願いして「猫を預かっています」という貼り紙をした。

それでも何ヵ月経っても誰からも連絡がなかったので結果的に大福は友達の実家で暮らす事になった。


痩せぎすで足に怪我をしていたのもあって友達のご両親は大福をそれはそれは大事にしたそうだ。久々の子育てと言わんばかりに。


大福は不思議と友達の実家に幸運をもたらした。

最初は随分前に間違って捨ててしまったと思っていた物が見付かるとか、お母さんのパート先の時給が5円上がるとか地味でわかりにくい幸運だった。

それがお父さんが宝くじで100万を当てて家のリフォーム計画が前倒しになったり、トラブルメーカーだった近所の住人が突如家を売りに出して夜逃げ同然に引っ越しをしたり、病気を患っていた親戚が快方に向かったり、漫画みたいに「良い事」が続いた。

友達も就職活動に行き詰まっていたが、大福の写メを送って貰ったらすぐに内定が取れた。

お母さんは「大福が来てから悪い事とか悩み事が減った気がするわ」と言い、お父さんも「大福は招き猫なのかなあ、大事にしないとなあ」と不思議がっていたそうだ。

死にかけてる所を助けて貰ったお礼のつもりなのだろうか。


大福が家に来てから1年程経った時、友達の兄が「結婚する」と言い出した。

慌てて友達も実家に帰り、兄の婚約者と会う事になった。

どういう人なのか両親も友達も全く知らなかったが、当日現れた婚約者はとても感じの良い人で、人見知りしがちな大福も珍しく懐いた。兄の会社の取引先で働いているというミサキさんという彼女も大福を優しく撫でる。その時の大福の幸せそうな様子を見て、ご両親は「多分この娘さんなら大丈夫だろう」と根拠なく思ったそうだ。


「彼女の親御さんは獣医をやってる。弟さんは北海道のあの有名な動物園で働いている」


兄がそう言った時、友達は吹いた。


ああ、俺の家はこれからもずっと猫や動物の類いから逃れられないんだな。


むしろ大福がこれからもふくふくと沢山の人に愛されて長く健康に暮らしたいからこそ、ミサキさんみたいなバックグラウンドの人を家に引き寄せたのかもしれない。

今まで家に幸運をもたらした代償として。


一度友達の実家に旅行を兼ねて遊びに行った事がある。

きちんと掃除された綺麗な家だった。

友達のお母さんが「こないだ2階のお掃除してたらぎっくり腰になって立てなくなっちゃって。携帯電話も下にあるしどうしよう、と思ってたら大福が下にいたお父さんを呼んで来てくれたのよ」と笑っていた。

しかし大福は傲る態度も見せず、窓際で小さく丸まって寝ていた。

綺麗な毛並みの大福はとても幸せそうだった。でもいつか尻尾が二又になりそうだな、とも思った。

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