異世界詐欺には気をつけて
小村ユキチ
プロローグ・ありきたりな転生
ぼんやりとランプに照らされただけの青い部屋の中で、気がつけば俺は、寝間着に使っている中学の頃の青いジャージと半袖Tシャツのまま、硬い木の椅子に座らされていた。前に置かれたテーブルの対面には、白い髭を生やしたみすぼらしい服の爺さんが座っているようだが、視界が霧がかかっているかのようにぼんやりとしていて、よく見えない。
「あー……君は、ミシマ・バクトくんで、合っているな?」
視界と同じくらい霞んだ声が、やや耳をくすぐるように響いてくる。
「おめでとう……君は選ばれた。これから君は、とある世界で、異能を持って生まれ変わることになる……」
なんだ? 夢かこりゃ?
「だがもし帰りたくなったのならば、”リターン”と、三十分以内にはっきりと十回、その口で唱えるが良い。そうすれば君は異能の全てを失うが、元の世界でやり直せる……では、良い旅を……」
視界がぎゅーっと狭くなり、眠るようにどこかへ落ちていって……。
「ほ、ホントに召喚できた……」
可愛らしい高い声と共に、急にパッチリと目が覚めた。冷たい風が首筋のあたりを吹き抜け、ブルリと肩を揺すらせる。どうやら冷たい石の上で、大の字なりに横になっている気配である。
「やったー! 私たち、勇者様を召喚できたんだわ!」
「だから言ったでしょ! 魔導書に間違いなんてないのよ!」
「うそ……信じらんない」
などと、緊張を孕んだ女の子たちの声が、頭上で鳥のさえずりのように響いているが、内容は全然頭に入ってこない。
勇者?
召喚?
目をこすり、頭上の光に右手をかざす。人が寝てるってのに、眩しいなぁ。
何事かとフラフラしながら、頭を掻きつつ体を起こした俺は、猛然とこちらに向かって突進してくる一人の女の子に気がついた。
嬉しそうに涙を流すその子の、妖精のようにキレイな顔にピントがあったのは、ほんの一瞬のこと。
俺の目は、男子の本能に極めて忠実に従って、首の下で揺れる魅力的な二つの丸みに吸い付けられていた。
俺に飛び込んでくる、素敵に巨乳な赤髪の美少女。
その下で、白い塊がプリンのように滑らかに形を変えて、俺の顔に真っ直ぐに……。
そして。
ゴンと、鈍い音。
彼女が胸につけていたアーマープレートが、額にカチ合った。
……いってぇ!!?
そして彼女の重量に押されるまま、哀れに倒れ込んだ俺は、恐らくは後頭部を石の床にしたたかに打ち付けて、あっさりと意識を失ってしまった。
転生から、わずか十秒の間ことである。
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