「私」

Arr

『私』

私は好きではない。



今いる部屋に響いている時計の音も

横になっている固い布団も

明るい日差しも眩しい空も

窓から入ってくる桜の花びらも

はしゃぐ子供の声も

夢から覚めたこの感覚も

全部、私は好きではない。



残飯に近いご飯も

ぺちゃくちゃ話すTVのニュースキャスターも

ギシギシうるさい椅子も

全て、私は好きではない。




服で散らかってる床も

硝子ガラスの破片が散らばってる床も

お酒や食べ物が転がってる床も

働きもせず床に横たわって寝てる男も

全て、私は好きではない。




部屋中に臭うタバコの匂いも

甘ったるい香水の匂いも

ブツブツうるさい化粧ベットリの女も

全て、私は好きではない。




制服のセーラー服も

重いカバンも

決まったこの靴も

学校行く前の憂鬱なこの気分も

全て、私は好きではない。




学校に着くといつも無い私の机と椅子も

お昼にかけられる牛乳も

ニヤニヤ見てくる目も

髪を切るそのハサミも

全て、私は好きではない。




帰れば、

喚き散らし殴ってくる女も

それを止めない周りも

怪我が増えるこの体も

全て、私は好きではない。




ボサボサの髪にザクザクの前髪も

黒い淀んだ目で見つめる姿も

傷だらけの体に包帯をまいてる姿も

鏡に映る姿も

全て、私は好きではない。




全員が寝静まった夜も

電気が消え真っ暗な外も

窓から見える曇った夜空も

夜に吹く冷たい風も

全て、私はーーー。




香水臭く化粧ベットリの女も

私のせいにして殴ってくる女も

酒に潰れてパチンコに行く男も

それに従うしかない私も

全て、私は好きではない。




暑い日差しと煩い声起きる朝も

アイロンで焼かれるのも

理不尽に怒られ頬を叩く女も

全て、私は好きではない。




ボロボロで行く学校も

くすくす笑う声も

半袖で包帯や怪我が見える制服も

嫌いな大人やクラスメイトの声も

全て、私は好きではない。




床に捨てられるご飯も

ゲラゲラ笑う人達も

止めもしない周りの人も

この教室も

全て、私は好きではない。




「やめろ」というその声も

話したこともないのに言うこの男も

私に伸ばす手も

こっちを見て優しく微笑むその顔も

全て、私には初めてのことで…。

戸惑い。頭の中、ごちゃごちゃ。

この全ての行動

全て、私は好きではない。





「一緒に帰ろう」というその声も

私の髪を櫛でとくその手も

楽しそうに笑うその顔も

全て、私は……





「遅い」と言って殴る母も

金を取りパチンコに行く父も

濃い化粧をして仕事に行く姉も

この家も

全て、私は好きではない。





夜が来れば

星が綺麗に見てるこの空も

涼しい風も

いつもとは違う風景に感じて

私は……





いつもと同じ時間に起きる朝も

「紅葉が綺麗です」といういつものニュースキャスターも

中に何も入ってない冷蔵庫も

全て、私は好きではない。





テストが近い事も

教科書が日々無くなってることも

あの男のせいで女子から呼び出されることも

全て、私は好きではない。





帰り道に笑顔で誘ってくるあの男も

「綺麗な紅葉」と言ってみせる葉も

面白い話も楽しい帰り道も

全て、私は……。





「酒を買ってこい」という男の声も

うるさい音でなる音楽も

姉の部屋で聞こえる声も

全て、私は好きではない。





日に日に傷が増える体が

私は好きではない。





窓を開ければ少し寒い風も

少し見えずらい星空も

ほんのり紅い満月も

……

私は…夜の景色が、好きだ。





寒い朝も凍えそうで死にそうな体も

ボロボロの赤マフラーも

急いで作ったホットミルクも

全て、私は好きではない。





ドアを開ければ一面真っ白の景色も

雪ではしゃぐ子供も

寒さでいたくなる耳も

全て、私は好きではない。




一年経っても飽きない団体のいじめも

見て見ぬふりの大人も

異様に見てくる人たちの目も

全て、私は好きではない。




いつもの様に誘ってくるあの男も

寒そうに耳と鼻を赤くする姿も

「明日から休みだな…だから!」と言い、遊びに誘う声も

全て、全て私は……。


















早く、言えば良かった。

気づけばよかった。

後悔ばかり

後悔、後悔、後悔…



白に広がる紅、マフラーより濃い赤…

横たわり動かない貴方も

泣き叫ぶ子供と無事で安心する親も

焦る車の運転手も

全て、私は好きではない。



半年?貴方と一緒にいた期間

でもその半年に沢山あって…

頬に何かが伝うのを感じた。

ポタ…ポタ…と貴方の顔に落ちていく。




涙、涙…

久しぶりに、もう渇いたと思っていた。私の涙






もう起きない

もう笑わない

もう話せない

もう手を握ってくれない

もう名前を呼んでくれない





救急車の音も

大人達のわからない話も

ぐったりと運ばれる貴方も

全て、私は好きではない。






白い布を被ってる貴方

泣き叫ぶ貴方の母親も

泣くのを我慢してる父親も

(白、なんて似合わないから

やめて欲しい。

ドッキリ、でしょ。

どれだけ手が込んでるの。

親まで呼んで、病院までさ…)

…なんて、分かってるくせに

心の中で思う自分も

全て、私は好きではない。






綺麗な笑顔で笑う写真の貴方も

果物や綺麗な花があるのも

箱の中で眠る貴方も

全て、私は好きではない





見えない所に貴方は行った。

「熱い?」なんて聞いちゃって

「熱いとこ、嫌いだもんね」なんて

もう届かない独り言をいう自分が

私は好きではない。





帰ればもう何事もありませんでした顔をする人も

何も知らずはしゃぐ子供も

真っ赤な夕方の空も

全て、私は好きではない






別に、特別な関係だった訳では無い。

いや、なれたのかもしれない。

…なんて、今更思う自分が

私は好きではない。








(でも、もしも…

もしも、早く気づいて言っていれば

何か変わったのかも)

…なんて思っては

何も変わらない、と思い泣く私が

私は好きではない。




朝起きて気怠い朝も

貴方がいない学校も

泣き腫らして痛いこの目も

全て、私は好きではない。




貴方の机に置かれる花瓶も

もう忘れたかのように笑ってるクラスメイトも

異世界の様なこの教室も

全て、私は好きではない。




いつも同じ

あなたが隣にいない道も

寂しい私の隣も

いつもの聞こえる声が聞こえない事も

苦しいぐらい私は…

全て、私は好きではない。





貴方の家の名前が彫られてる石

そこに貴方が入っていることに

私は、「好きではない」と感じた。








「…ごめん、今日は素直になる。

遅いね、素直になるの…ごめんね。」



届かない、分かってる

分かってるけど、言わせて下さい。


言えなくて後悔した。

遅いけど今、言わせてください。





ーー私は、やっと素直に喋れるーー




「あの時、止めてくれた貴方。

私、多分あの時からだったと思う。

無駄にたくさん話しかけてきて、

目が合えば手を振ってきて…

嫌われ者に良くやったね…凄いよ…

…こんなこと言えば「凄くない、普通だ!」とか言うのだろうね…」


いつもの様に喋る、喋る喋る

貴方がいなくなった後の事

助けてもらった時、遊んだ時のこと…



「……今更さ、気づくのごめん。

遅かった……でもまさか、そっちがいなくなるなんて、思わないじゃん…?

100歳になっても元気に生きてそうだったし……ほんと、バカだなぁ…

貴方も、私も…。

…遅くなったけど、私は助けてもらったあの時から、貴方の事がーーー」



あと少し、伝えよう。

ずっと気づいてて気づいてないふりをしてた。あの感情

涙が溢れるの我慢して…

震える口で…



「私は、貴方の事が…大好きでした。」






今更だと思う。

こんな事には遅い私も

お互いの関係を壊したくなかった貴方も

嘘しか言えなかった、この口も

全て、私は好きではない。




何度謝っても、謝りきれない。

(嫌いじゃない、好きだよ…)と何度も思い言えなかった自分が

私は好きではない。







嘘つきで臆病者で弱虫で

いつも逃げてばかりで

そのせいで大切な人を失った。

私は、私が好きではない。






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