ACT105 これが作曲家!?……マジでヤバくね?

 玄関のドアが開くと同時に聞こえてきたのは絶叫だった。

 年齢は40代半ばくらいだろうか?

 いきなり芸能人が自宅を訪ねてきたら驚くのも無理はない。

 しかもそれが国民の娘――新田結衣なら尚更だ。


「ほ、本物?……」


 MIKAが肯定すると、再び絶叫。

 何この状況。ちっとも話が進まない。

 早く本題に行けとMIKAを小突く。


 ユーチューバーの話をすると、首を傾げて、「ああ」と一つの結論を導き出す。


「多分、息子の事だと思うけど……」


 息子だろうがなかろうが構わない。

 早く家の中に入れて欲しい。

 外は危険に満ちている。


 こちらのそんな思いを察したのか、「取り敢えず上がって」と言ってくれたので遠慮なく上がらせてもらう。

 帽子とマスクを外すと、


 きゃぁぁああああっ――!!?


 三度の絶叫。


 どうやら私には気付いていなかったらしい。

 MIKAごときであれほどまで歓び叫んでいたのか。

 しかも二度の絶叫を経て、私の時にはパワーダウンしていた。

 なんか癪に障る。


 取り敢えず訪問したいきさつを話す必要があるだろう。

 まあ、その辺はMIKAがやってくれるらしい。


 一通り話を終えると、申しなさそうに、


「ウチの子は引き籠りで……」


(マジか……)


 どうするんだこれ?

 ユーチューバーを作曲家とすること自体色々と面倒そうなのに、その作曲家本人が引き籠りって問題ありありじゃない?

 前途多難とはこのことだ。

 もしかしたら私は、見かけ倒しの泥船に乗っているのかもしれない。

 沈没する前に脱出しなくては……無理だ。

 すでに全国ネットで歌手デビューを宣言(私がしたわけではないけど)。

 ここで辞めるなんてことがあれば仕事を放棄したも同然。

 叩かれるのは間違いない。

 下手をすれば芸能界から干される可能性だってある。


 通された客間でお茶を啜っていると、扉が開いて顔が覗く。


「ヤスヒロ?」


 名前が呼ばれると同時にバンと勢いよく扉が閉められる。

 ドタバタと階段を上る足音がした後、二階の部屋の扉を閉める音がした。


「今のが?」


「ええ、息子です」


 一瞬だったがはっきりとその姿を見た。

 かなり暗い雰囲気だった。

 コミュニケーション能力皆無といった感じだったけど、大丈夫だろうか?

 もはや不安しかない。


「取り敢えず、息子さんとお話しさせていただいても構いませんか?」


 MIKAは淡々と話を進める。

 確かに芸能界は実力主義の世界。

 変人、奇人と言った社会不適合者たちでも働くことの出来る世界なのだ。

 実力さえあれば引き籠りだろうと関係ない。

 まあ、引き籠りが芸能界に飛び込んでくれるとは思えないが……裏方だから大丈夫か?


 お母さんの同意を得て、作曲家(ユーチューバー)への交渉に移る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る