ACT73 謎のリーク記事(上)

 気持ちも新たに再スタートを切った結衣だったが、さっそく躓いてしまう。

 週刊誌に記事を書かれたのだ。

 内容は実に適当で、あることないこと好き放題に書いていた。


 もちろんマネージャーの高野さんをを始め、スタッフが発行元の出版社には抗議を入れたが録に取り合ってもらえなかった。

 芸能スキャンダルを主戦場に扱う雑誌だったこともあり、その手の対応にも慣れているらしかった。


 こんな出鱈目な記事掲載しやがって……。

 舌打ち混じりに呟くと、高野さんは問題の記事が載った雑誌を掴み、壁目掛けて放り投げた。

 相当ご立腹のようだ。


 壁に激突した雑誌が、記事のあるページのところで開いた。

 そこには大きな見出しで、『新田結衣、バラエティーの洗礼。降板を直訴!?』とあった。

 もちろん降板を直訴したなんて事実はどこにもない。思ったことなら、なくもないけど……。



『初のバラエティー番組のレギュラーということもあり、注目を集めた新田結衣だったが、お世辞にも合格点をあげることは出来ないだろう。


 トークを遮り、進行の妨げにしかなっていない。彼女が居なければトークでもうひと笑い生まれてもおかしくないという場面は多々ある。

 番組関係者は「未だに、女優としてゲスト出演感覚が抜けきれないんでしょうね」と零す。


 若手の実力派として、ドラマに映画と引く手数多の売れっ子女優にはバラエティーは退屈な現場なのかもしれない。

 しかし、それはプロとしての姿勢として問題があるのではないか? 若くして名声を手にした彼女に、業界のルールを教えてくれる人間が居なかったのが一番の問題だとも言える。


 今、業界関係者の中では「新田結衣は起用しづらい」という風潮があるという。

 SNS上では彼女に対して、批判的な意見が多く見られている。

 「バラエティーに出る人じゃない」「テレビドラマだけ出ていればいい」「非協力的な態度に失望した」などいったコメントが寄せられる。これらの声に耳を傾け、再び人気を取り戻すことができるのか、今が正念場である。』



 ほんと、好き勝手書くわよね。

 私は頬杖をついて嘆息した。

 適当に仕事をしているなんてありえないのに。

 適当な情報をリークした奴覚えてろよ。

 とくに何かをしようという訳ではないのだが、嫌味の一つでも言ってやろうとは思った。


 まあ、きっと真希の仕業だな。

 目の前の目障りな障害から排除しに来たという事だろう。

 元々私とは完全に敵対しているから、MIKAを潰すついでに潰しておこうという考えなのかもしれない。

 MIKAのおまけでないことを望むばかりである。

 

「また、綾瀬の小娘の仕業かぁああ~ッ!」

 いつになく取り乱す高野さん。

 きっと私が知らないだけで、苦情の処理やらでまともに寝ていないのだろう。

 目の下にはクッキリとクマがあり、それを隠す化粧もしていない。そんな時間がないのだ。

 時々、高野さんが女性だという事が頭から抜け落ちてしまう事がある。

 それ程までに仕事に取り組み、私を導いてくれている。

 それは仕事だから、の一言で片付けられるモノではない。

 時には親以上に、結衣の事を思って親身になってくれた。


 そのことは真希だって知っているのだ。そこを履き違えたリークを彼女がするだろうか……するかもしれない。

 今までもお母さんの事とかリークしてたし……。


 MIKA人気に押される形で、人気が下がっているこの大変な時期に、これまで通り真希の相手もしなくてはならないのかと思うと急に頭が痛くなった。


「ごめんね結衣。私が慣れない仕事を取ってきたせいで……」

 覇気のない声が萎んでゆく。

 いつも強気の高野さんも、相当気弱になっているらしい。


「大丈夫だよ高野さん。真希の嫌がらせは今に始まった事じゃないでしょ?」

 笑顔を見せ、気丈に振る舞って見せる。

 本当は結構キツイ。


 それでも、真希の嫌がらせだと思えばこそ耐えられた。

 次の週に真希のリーク記事が掲載されるまでは……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る