ACT71 アイドル襲来(上)
なぜ番組は、たったワンクールで新レギュラーを投入したのか?
視聴率は悪くない。むしろ好調と言うべき数字を残している。
番組はゴールデンタイムということもあり、毎回二桁――二桁後半を記録していた。
時間帯では視聴率トップだったはずだ。
視聴率は好調。だとすれば、更なる視聴者の獲得に動き出したと見るべきだろう。
売り出し中のアイドルをキャスティングしたのは、新たな男性視聴者の確保が目的なのか?
しかし私と真希で、十分男性視聴者は確保できているだろう。
確かに、女優とアイドルとでは支持層が異なるだろうが、真希はともかく、私は基本的に男性に好かれるタイプである。
これ以上の男性視聴者の獲得は難しいように思う。
反対に、女性視聴者の獲得を積極的に行うべきだと私は思う。
結衣がレギュラーを務めるバラエティー番組『お笑い革命~至高の笑い発信基地局~』は、結衣と真希、そして新たに加入したMIKA以外は全員が芸人という「THEバラエティー」空間であった。
イケメン俳優の一人や二人連れてくれば若い女の子たちの人気も取れただろうに。
現状の結衣と真希の扱いを見て、喜んで参加する俳優が居るのかは不明だが、まったくいないなんて事はないだろう。
何と言ってもここは芸能界。奇人変人の集まりである。
変わり者の一人や二人、容易に見つかる。
増やすべきは女性レギュラーではなく、男性(イケメン)レギュラーだ。
しかし、いくら結衣がそのように思ったところでその考えが番組作りに反映されることはない。
結衣は所詮、バラエティーは素人同然――畑違いなのである。
そもそも意見を口にすることもなかったのだが……
不安と不満を抱いたまま、新体制での収録が始まる。
…………
……
…
MIKAが加わって既にひと月。
4回の収録全てが、何の滞りもなく進んだ。
まるで、最初から番組に居たかのように場に溶け込み、新レギュラーと感じさせない健闘ぶりであった。
デビューして日が浅いにもかかわらず、それを感じさせない自然なキャラクターは、お茶の間にも受け入れられつつあった。
そして結衣は、このひと月を通して、MIKAに好感を抱くようになっていた。
収録のたびにあいさつをしに楽屋を尋ねてくれるし、収録の合間の休憩時間にお喋りしたときも感じがよかった。
芸人さん相手にも物怖じしない受け答えに、MIKAの人柄の一端を垣間見た気がする。
その点は結衣も見習わなくてはと思う。
結衣が芸人と初めて絡んだ際には、互いに距離感が掴めず、手探り状態(未だに感じる時がある)。
その結果、変な間が幾度も生まれた。
それら全てを、晩春さんがフォローしてくれたのは言うまでもない。
芸歴3年に満たないという、MIKAの順能力には脱帽である。
レギュラーとして4回(ゲスト登場を含めて5回)も収録をこなす頃には、バラエティーの土俵でしっかりとトークを繰り広げていた。
そんなMIKAに対して、レギュラー歴どころか芸歴も10年近く長い結衣と真希は、どこかバラエティーという現場にフィットできていなかった。
MIKAが加わってから、平行線だった視聴率にも変化が生まれた。
15~16パーセントをウロウロしていた視聴率が、MIKAがゲストの回に18.4パーセント、翌週のMIKAレギュラー初回が19.2パーセント。
その後の放送でも右肩上がりに視聴率を伸ばし、ついに先週の放送では21.6パーセントを記録。20パーセントの大台を超えたのだ。
これにはプロデューサも笑いが止まらないらしい。
テレビ局はMIKAの話題で持ち切りで、耳を澄ませば彼女を讃える言葉が聞こえて来る。
テレビ業界は今、MIKA旋風(とでも言うべきか?)が到来していた。
今や業界は、新視聴率女――MIKAの話題で持ち切りだ。
「マジでありえない!!」
ヒステリックな声えお上げながら真希が楽屋に入ってくる。
真希が私の楽屋に来るなんてビックリ!? 今日は槍でも降って来るのかしら?
「何なのよ!? 人の楽屋に押しかけてきて」
私は真希の襲来に眉根を寄せた。
やっぱり真希は苦手だ。
「あの女、疫病神よ!」
「誰が?」
「あの新レギュラーの女に決まってるでしょッ!」
「MIKAちゃんのこと? いい娘じゃない」
しかし、真希はそうは思っていないらしく、
「あの女のせいで『今、旬のタレント――女性部門』で11位になったのよ。トップ10からこの私が零れるなんて、ありえないわ!?」
「そのランキングMIKAちゃんは何位だったの?」
「2位よ? 2位!? ちなみにアンタは6位よッ――」
吐き捨てるように教えてくれた順位に、
「あ、教えてくれて、ありがと。それにしても2位は大躍進ね」
素直に新人の活躍を褒めたたえると、真希は違うと叫ぶように言葉を遮った。
「そうじゃないでしょ!? あの女、調子ノってるわ!」
「調子にノってるって……」
アナタじゃないんだから――という言葉は何とか堪えた。
この時、この真希の被害妄想が現実のものになるとは、夢にも思っていなかった。
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