ACT43 一方通行
電話をかける。
呼びだし音の後に出た彼の声はやっぱりカグラ様そっくり! もう、それだけで私のテンションはうなぎ登りだ。
テンション激高の私とは対照的に彼の声には元気がない。
訳など聞くまでもないのだが、一応尋ねる。
どうしたの、と。
「……」
返答がない。どうしたのだろうかと、こちらから再度話を切り出そうとしたところで反応があった。
「ごめん。やっぱり今度、逢った時に話すよ」
沈んだように聞こえた声はきっと気のせいではないだろう。
だからこそ私はいつも以上に明るく言った。
「ねぇ、今度撮影見に来ない?」
「えっ」
ギリギリ聞き取れた驚きの声に、私は畳み掛けた。
「こんなチャンス滅多にないわよ! 王子監督の撮影現場何てこの業界に居ても簡単に味わえるものじゃないんだから! ビックチャンスよ!!」
「あーうん、わかった。じゃあ、お邪魔しようかな……」
少しばかり声のトーンが明るくなったような気がする。あくまで気がするだけだけどね。
私は早速、足下に散らばったスケジュール表をかき集め、日程を確認した。
来週にはロケハンを終えた王子監督が戻ってくる。
ちなみに王子監督は現在日本にて現場でメガホンをとっている。
一度目のロケハンで目を付け、こちらで撮れるシーンは全部撮っておくとの事だった。
第一、ロケハンはクランクインする前に一度済ませているはずなのに、撮影が始まってから改めてロケハンする王子監督って、やっぱり相当の変わり者みたい。
製作会社のプロデューサーさんによると、王子監督はロケハンを終えて戻ってくるとすぐさまロケ地に飛びたがるらしいから……。
「明日とかどう?」
あまりに急なお誘いだから断られてしまうかも、と心配していたのだが。
「わかった。明日見に行くよ……」
間をおいて、
「君が仕事をしているところを見るのは初めてだな。俺テレビあまり見ないから、君のCMくらいは見てるけどドラマとか映画はサッパリでさ」
笑う彼の声がどこかよそよそしく感じたのは気のせいだよね?
その後二人で他愛ない話で時間を潰す。楽しいから別にいいけどね。
大切なのは話の内容じゃなくて、相手が誰かってところだもんね♪
よ~し! 明日はいつも以上に気合い入れて頑張るぞ~。
でも明日の撮影、真希と慶が一緒なのよねぇ……。
最悪の組み合わせだ。意がキリキリと痛んでくる。でも、明日は邪魔させないわ! 彼にカッコいいところ見せるんだから!
女の子としては可愛いところかしら?
まあ、どっちでも同じことね。いいところを見せるんだから。
「どうした~」
あっ、自分の世界に入り込んじゃってた!
「ごめんごめん。ちょっと明日のこと考えてた~」
「俺の事忘れてたのか」
「ごめんって~、お詫びに明日は私の最高の仕事姿見せてあげるから」
最後は笑って「おやすみ」を言い合った。
通話を終えた私の心はいつもより軽やかだった。
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