ACT23 満足してる

 ワイドショーへの出演はすぐに決まった。

 どの局も私のコメントを欲しがった。


 私は正直に答えた。自分の気持ちを素直に語った。その事が功を奏し世間からのバッシングは次第に消えていった。

 その代わりに新たに浮上したのは真希の本性だった。

 私の学校生活をマスコミがどこから嗅ぎつけたのか、世間の感心はそちらに向き始めていた。


『綾瀬真希の陰謀』なんてメディアが取り上げたものだから、さあ大変。真希はあっという間にに渦中の人物となった。


 真希は黙秘を続けた。


 …………

 ……

 …


 どうしよう。電話帳に記録してある最初の番号を見つめる。

 掛けたいけど、否定されるのが怖い。

 裏切ってしまったから。

 嘘をついた。傷つけた。

 画面をタップする指が震える。


 ……あ、押しちゃった。


 繋がらないで――。

「もしもし」

 速攻で繋がっちゃった!?

 ……無視はよくないよね。

「も、もしもし」

「なに?」


 必要最低限の返答。

 やっぱり怒ってる。


「その、ごめんなさい。私、騙すつもりはなくて、でも結局、同じことだよね……怒って当然だよね」

 尻すぼみになる声に気分も落ちる。


「別に怒ってねぇよ。テレビ見たから」

 ちゃんと私の想い、伝わってたんだ。

「でも、直接聞きたい。だから、学校で待ってる」

 一方的に通話は切られた。


 …………

 ……

 …


 約ひと月ぶりの学校。

 祝日の学校は人がまばらでどこか寂しい雰囲気が漂っている。

 頬を撫でる風に乗って部活をしている生徒の声が届く。

 人の気配に振り返る。


「……赤崎くん」

「……よお」

 ああ、生のカグラ様……じゃなかった、赤崎くんの声。

「ごめん……」

 はあ、とため息を吐き、「そんな言葉が聞きたいんじゃねぇよ」と笑ってくれる。

 だから答えた。「ありがとう」と。

 そのあと、ひと月の間にあった出来事を赤崎くんは順を追って話してくれた。


 スマートフォンが震える。

 液晶画面には松崎さんの文字。

 通話ボタンを押す。

「はいもしもし」

 電話の向こうで松崎さんはどこか興奮している様で、息が荒かった。

「どうしたの?」

「決まったのよ!」

「なにが?」

「映画! 王子監督の映画のキャスティングに正式に決まったの!」

「ウソ、ほんとに!? やったー!!」


 何事かときょとんとしている赤崎くんに説明する。

「おめでとう。良かったな」

「うん」

 ああ、今日はなんて最高の一日なのだろう。

「おめでたついでに付き合わない?」

「はい……って、えっ!? いいんだけど、なんか軽っ!?」

 ムードも何もない告白に戸惑っていると、通話中の電話口から漏れる声が私を呼ぶ。

「もしもし。もしもーし」

 そう言えば、まだ通話中だった。

「ごめん、ごめん。で、なに?」

「大したことじゃないんだけど、アナタが好きなアニメ、ユーリ様? カグラ様? とかいうの、また始まるってよ」

「え、それって『絶海のプリンス』の第三期って事!?」

「うん。よく知らないけど多分そう」


 おっしゃーッ。

 歓喜に打ち震えた。またユーリ様とカグラ様の濃密な……ムフフ♡

「おーい。どうした?」

 あっ、赤崎くんの事完全に忘れてた。

「聞いてユーリ様とカグラ様が戻ってくるの!」

「よくわかんない」

「大ニュースよ。今年一番の吉報よ」

「今年一番、俺の告白よりも重要?」

「もちろん!!」

 釈然としない顔してるけどまあいいか。


 何はともあれ王子監督の撮る映画が、復帰第一号の作品。加えて心のオアシス『絶海のプリンス』も始まる。

 でも何よりも大きいのは新しい友達と……気恥ずかしいけど、彼氏の存在。


 私、もっと躍進できる気がする。

 普通とはほど遠いけれど、今の自分に満足してる。


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