第一幕 朝ドラ女優の憂鬱
プロローグ
スポットライトの中心に佇むスタンドマイクに向かって駆け寄る。
「はい、どーもー。スパークスで~す」
疎らな拍手が出迎える。
小さな劇場のお笑いライブ。
客席にも空席が目立つ。
スパークスは結成1年目の新人である。
芸人として売れたい美月と、テレビ業界に進出したい春菜。
売れたいという想いは同じでも芸人という仕事の対する向き合い方がまるで違った。
今日のライブも当日ネタ合わせをしただけで本番を迎えていた。
「……ってことがあったんですよぉ~」
「――……つまりそれってアンタがアホやってことやんなぁ?」
「違いますぅ。今のは……っていうボケであって私がほんとにそんなアホなことしとるわけないやろ! ってか説明させんといて……」
「もうええわ」
客席へと頭を下げる。
舞台袖には次の出番を待つ芸人がボソボソとネタを呟き、反芻している。
今日の舞台の出来栄えは最悪だった。
ネタの完成度を差し引いても酷い。
2人の間が何よりの問題だ。
お客さんを満足させることは難しい。それでもやっている本人は楽しむ必要があると私は考えている。
自分が楽しんだ結果の先にお客さんの笑顔があると信じている。
それなのにテレビ進出の手段としか芸人の事を考えていない春菜に美月は怒りを覚えていた。
数秒前までは――
「お疲れさん」
「あっ、山路さん」
先輩コンビ、オズボーンのボケ担当、
山路は美月をお笑いの世界に誘った張本人である。
美月は山路に淡い恋心を抱いている。
「お疲れ様です、山路さん。今日もボケ冴えてましたね」
「持ち上げても何もないで」
「本当の事ですよ」
美月の好きという感情に中てられたのか2人を取り巻く空気が先輩後輩のものから男女のものへと変わる。
2人の間に言葉はなく、互いに見つめ合う視線が絡まり合い、引き合う。
距離が縮まる。
柔らかい感覚が唇に伝わる。
そして――
「はい、カ~ット」
「お疲れ様でしたー」
監督の声とともにスタッフの拍手が私を迎えた。
「お疲れ様」
「ありがとうございました」
私は頭を下げる。
「美月よかったよ」
「山路哲也も結構ハマってましたよ
「そうかい?」
照れくさそうに鼻の頭を掻きながらはにかむ。
「結衣さんも評判通りの演技だったよ」
「ありがとうございます」
社交辞令だろうが、お褒めの言葉は素直に受け取っておく。
変に勘ぐったりはしない。
それが私のキャラだから。
私こと
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