ACT5 理解者

 外堀埋めちゃうぞ大作戦(結衣、命名)は万事うまくことが運んでいる。


 おじ様(瑞樹のお父さん)は元々、私が芸能活動していることをあまり良く思っていなかったらしく、全面的な協力は難しいが、力になれることがあれば何でも言ってくれ、との返事をもらった。


 瑞樹にデレデレだからな、おじ様。単なる親バカなんだけど。


 おじ様は味方についてくれた。


 次の標的ターゲットは、マネージャーの高野さんである。


 高野さんはここ最近、仕事量が多すぎると母に進言していたし、何より私の気分転換にも目を瞑ってくれる。


 私と瑞樹がファストフードを食べていることを知りながら気付かないふりをしてくれている親切な人だ。


 お母さんは、ファストフードは太るだとかいろいろ言って食べさせてはくれないだろう。すごく厳しい人だから。


 芸能人は身体が資本。身体が商売道具なのだ。でも、育ち盛りの現役JKにとって食事制限は地獄である。だって成長期なんだもの。


 それに、一度も食べたことがないスイーツなんかをさも大好物かのように語るのには罪悪感しかない。


 お菓子メーカーのCMをやっているからか私=スイーツっていうイメージがついちゃってる。


 好きは好きだけどカロリーが高いから食べさせてもらえない。


 それは芸能人なら当たり前の気遣いなのかもしれないけど……そんな中でも私の私服の瞬間(高カロリー摂取)も黙殺してくれる優しい高野さんなら私の計画に乗ってくれるはず。……大丈夫だよね?急に不安になってきた。


 ボサボサの髪を手櫛で梳きながら高野さんが車に乗り込んで来る。


 どこか機嫌が悪そうだ。


「どうかしたの?」と言い終わるよりも早く高野さんは堰をきるように不満を語りだす。


「もう最悪」


 明らかに独り言ではない音量の声に私は慎重に答える。


「お仕事? それともプライベート?」


「仕事よ、仕事」


 嫌になっちゃうと笑いながら言う。


「何があったの?」


「宮地さんがセクハラ紛いの事してきたのよ」


 宮地さん……全く思い当たる人物がいない。


 誰だっけ? でも高野さんが名前を出すってことは私の逢ったことのある人だよね……。


 私の疑問符に気づいた高野さんが言葉を付け足す。


「ああ、ゴメンゴメン。名前言われてもピンと来ないよね。ハゲ親父のことよ」


 ハゲ親父こと宮地卓志は私の出演(準レギュラー)するバラエティー番組のプロデューサーである。


 テレビ局で顔を合わせると「結衣ちゃんは相変わらず可愛いなぁ」とニタニタと粘着質な笑みを見せるキモくてハゲの親父だ。


 もちろん口には出さないけどね。


 しかし、よりにもよってなんで今日、高野さんにちょっかい出したのよあの人💢


 ただでさえ反対必至の無茶なお願いをする日に限って機嫌を悪くするのよ!?


 話を切り出すことはできたもののそのあとの顛末てんまつは言わずもがな-。


 高野さんからの大反対を受けた。


 それでも最後には私の味方になってくれる高野さん。大好き!


 半ばあきれてたけど……。


 今後、関係者への説得および根回しなどを行ってくれるという。


 それで高野さんと相談した結果、お母さんには映画の試写会の時に話そうと決めた。



 *



 お菓子メーカーの新作発売に合わせてCMの新シリーズの撮影の予定が入った。


 始めは一回限りを予定にして作られたCMだったからシリーズに登場する人物の名前がマイナーで、後から登場した人たちの方がメジャーな名前をもらっている。


 プリンとかマカロンとか有名どころの菓子の名前が並ぶ。


 真希のショコラはまだいい。


 フランってどんな菓子なのか知らない―今はきちんと調べてどんな菓子なのか知ってはいるけれど日本ではメジャーな菓子とは言えないだろう。


 だからだろう、「フランちゃんだけ何でお菓子の名前じゃないの?」なんて言う子ども多い。


 でもそんな不遇の時を過ごしたフランが脚光を浴びる時が来た。


 原点回帰とでも言えばいいのだろうか? お菓子メーカーはCMシリーズの人気キャラクター(登場人物)の名前の菓子を全面的に押し出して売ることにしたらしい。


 CMの独り歩きが最近目に付くようになっていたから仕方のないことかもしれないがCM本来の目的は商品のアピールである。


 しかし、今や菓子屋ファミリーと題されたシリーズは芸能界への登竜門(足掛かり)となっていた。


 まあ、すでに売れている私にとっては昔なじみ(最早、ルーティーン)のお仕事でしかないんだけど。


 結構楽しみにしてる!


 真希さえいなければ……ね。


 撮影自体はとても好きなんだけど……今回の撮影で真希との共演は避けられないのよね。


「はあ……」


 思わずため息が零れる。


 結果として私の嫌な予感は見事に的中することになる。

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