猫のタマ

只野祐平

猫のタマ

猫は三日で恩を忘れるって言われてますが、

私はそれに関してはいささか疑問に思うことがあるんですね。


昔飼っていた猫、タマっていうんですがね、前の主人のところではカップラーメンばかり食べさせられていたということもあって、

ボロボロで見栄えが悪くて体調も崩しやすかったんです。


私が子供のころ住んでいたのはドが三つつくほど田舎でして、カレーを作ろうにも肉屋がない。

見渡す限りの山山山。下に目をやると田んぼがずらっと。そんな感じの所に母子の二人で住んでいました。


人のお医者はかろうじてありましたが当然、猫のお医者なんてものはなく、母親と一緒にバスで三十分、

電車で四十分ほどかけて行ったところの町のペットショップに薬を買いに行ったことが何度かありました。

一日の用事が猫で終わる。

なんというか一家親バカならぬ一家飼い主バカでしたね。


しかし当の猫はというと特別家族に懐いていた訳ではなくてですね、一週間帰ってこなかったと思ったら、ふと居間でくーくー寝ていることもしばしばありまして、

フーテンのタマってぐらいな放蕩猫でした。


そんなある日の夜、玄関からガシャガシャ、ガシャガシャ、音がする。時間はもう深夜。誰かが訪ねてくるなんてことは考えにくい。田舎の夜道は街灯も少なくて、真っ暗ですからね。

母が当然確認しに行く。私は幼子だったので横で寝ている訳です。

人の気配はなく、古びた引き戸が、でたらめに揺さぶられガラスの音が鳴らされているわけです。


でも、母はすぐ気づきました。まあここまでお読みの方もこの流れからお察しと思いますが、ウチの猫、タマだったんです。

すぐさま母はタマにエサを作ってあげて、そしてふと考えました。

タマとは数年のつきあいですが、いままで夜中に帰ってきたことがない。そもそも玄関を揺さぶるなんてこと初めてだったんです。


母は寝室に戻って、再び床につこうとしました。

そこで隣で寝ている私を見て驚きました。


なんと私が高熱を出してうなされていたんです。

すぐに母は村のお医者さんに電話をして、治療してもらい、事なきをえました。


そして、やはり引っかかるのは猫のタマのことです。

もし、タマが帰ってこなかったら、私は母が朝方に起きるまで高熱を出したまま放置されていたわけです。

結果的に命に別状はなかったとしても、幼子が高熱を出していてうなされている状態、数時間早く治療が出来たことは間違いなく大きな救いになったと思います。


さて、皆さん。

タマが夜中に帰ってきたのは偶然だったのでしょうか?

たとえ偶然だったとしても、偶然と偶然が重なったら、それは必然とも思えてきます。


猫は六感が働く動物だってのも、よく聞く話ですが、

私は猫の恩返しってのは、あると思うんです。

だって実際に助けられたことがあるんですから。

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猫のタマ 只野祐平 @tadanoyuhei

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