Everlasting Hell(※グロホラー)

昆布 海胆

Everlasting Hell

「う…うぅん…」


重くのし掛かるダルさを覚えながら目をゆっくりと開く…

そこは何処かの家のダイニングであった。

目の前には台所が見えており何かをコトコト煮込む音が聞こえている。


「あれ?なんだろう…」


頭の中が混乱しているのか記憶がハッキリしない、少なくともこの家に見覚えがないのは確かだ。

とにかく分からないことはいくら考えても分からないものだ。

悩むより行動に出ようとした俺はソファから立ち上がろうとした。が…


「えっ?縛られてる?」


動こうとして手足がロープのようなもので縛られているのに気が付いた。

そうして足元に目をやって初めて周囲の汚さに気が付いた。


「うっ…」


鼻を刺す刺激臭が漂っている事に気が付き込み上げる吐き気を何とか押さえる。

食べ物が腐ったのであろう、周囲にはカビの生えたなにかが大量に落ちていて物凄く汚かった。

身動きが取れないので仕方なく落ち着いて記憶の整理を行うことにした…

そうだ、俺は確か…









「げぇ?!次の授業現国かよ?!」


同じクラスの友人が嘆くのも無理はない、現国の教師は堅物で有名な柊先生だからだ。

とにかく授業内容が固くあれで眠るなと言う方が難しいってものだ。


「50分が長いんだよな…」


友人のその言葉に軽く頷く、とにかく睡魔との戦いとなる授業中に居眠りでもしようものなら内申に何を書かれるか分かったものじゃない。

来年受験する身としてはそんな事で評価を下げたくないものだ。


「やべっ!チャイム鳴ってるわ!」


そう言う友人の言葉で響くチャイム音に気が付いた。

教室や廊下にはスピーカーが付いてるのに階段の踊り場には無いので聞こえにくいのだ。

俺達は急ぎ足で教室に戻る…


「で、あるからして、ここの言葉には…」


退屈だ。

なんでこんな意味のない事を学ばなければいけないんだ?

そんな事を考えながら黒板をノートに写していた…









そうだ。

俺は日本の学生だった。

名前は…イサム…

神林 勇

そう、それが俺の名前だ。


「う…ううん…」


その時、呻き声が聞こえた。

ソファの真横、丁度視界に入らない場所に誰か居るのに気が付いた。

モゾモゾと動く音がした後、荒い呼吸で立ち上がったその人物の手が俺の縛られているのに左手に重なる。


「ヒッ?!」


その手は血塗れで触れた部分からベチャッと生暖かい感触が伝わってきた。

恐る恐る首をそちらに向けると…


「まだ…生きてるみたいだな。いま助けてやるからな」


そう告げた男性は血塗れだが警察官の服を着ていた。

助かる…その安堵に包まれたと同時に再び異臭に気付き吐き気が混み上げてくる。

血まみれの手で必死に縛られている縄をほどこうと警官は頑張るが血で滑って縄はほどける気がしない。


「くそっ…なんでこんな…」


そう愚痴る警察官の後ろに人影が見えた。

声がでない、このあと何が起こるのか理解しているのか一瞬で喉が乾き呼吸すらも辛くなる。

警官の後ろで人影は手にしているそれを振りかぶり突いた!


ゴトン…


警察官の体は力を失いその場に倒れる。

俺の目の前には突き出されたスコップがあった。

その上には警察官の鼻から上が乗っており目がキョロキョロしている。

自分が殺された事を理解できないのだ。

脳が傷付かず神経だけを切断されたので意識がまだ残ってるのが見てとれた。

恐ろしい…


「ほら、坊や、ご飯だよ」


その声は枯れており耳に反響する様に響く…


見上げるそいつは俺の頬を手で摘まみ口を強制的に開かせる。

止めろ!止めてくれ!嫌だ!助け…


俺の口の中にスコップの上に溜まった警官の切断面から流れ出た液体を流し込む…


「ぼえっ!ぐえっ!げぇっ!」


量は少ないがそんな物を体が受け入れるわけもなく遂にその場に吐いてしまう。


「おぶぇ!ぐげぇっ!げほっげほっ…」


涙が止まらない、酸っぱい吐瀉物の臭いが漂うなかそれを見た…見てしまった。

吐いた中に虫や人の指の様なものが混じっていたのだ。


「おやおや、まだ具合が悪いみたいだね…」


そう言ってそいつは手を伸ばしてくる…

嘘だ…止めろ!止めてくれ!


「が!がぁぁぁぁぁ!!!!」


そいつの手は俺の左目を抉り取った。

右目から抜き取られた左目と神経が引きちぎられるのをしっかりと確認し一瞬遅れて激痛が走る。

酷い…なんで俺がこんな目に…


痛みが激しすぎて脳内麻薬が分泌されてるのか痛みはあるが耐えれないほどではなかった。

そして、そいつは俺の左目をナイフで二つに割る。

残った右目で自分の左目の行く末を見守る俺は脳内にまで響く痛みで意識が遠くなる…

そして、右目で見たそれが記憶を呼び覚ます。








「はぁ~やっと終わったぁ~」


友人が机に抱き付くように漏らす。

チャイムが鳴り挨拶が終わり、教師が教室から出るのと同時に友人のスイッチが切り替わる。

授業中は真面目なのだがそれ以外は全力でだらけるこいつは本当に見ていて飽きないな。

そんな事を思いながら俺は一人トイレに向かう。


そして、トイレのドアを開けて中に入った時にそいつと目が合った。

裸にされて泣いている同級生だ。

そして、横から肩に腕が乗せられる。


「いらっしゃいませ~通行料2000円になります~」


不良である。

目の前のアイツは金を払わなかった結果か…

俺はポケットから財布を取りだし入っていた2000円を支払う。


「毎度あり~」


そう言って不良は俺から金を取って肩から腕を離す。

そして、小便を済ませ手を洗って出ようとしたところで不良が前に立つ。


「いらっしゃいませ~通行料5000円になります~」


はぁ?

唖然とする俺の胸ぐらを掴んで引き寄せる不良。

なんでこいつらこんなに顔面アップが好きなのかと考える間も無く、腹に膝蹴りが叩き込まれる。

こいつ、最初から逃がす気が無かったのか。


「金を払わないなんて、そんなヤツにはお仕置きだねぇ~」


痛みでうずくまる俺の髪を掴んでビンタをしてくる不良。

ここが学校ってことを理解しているのかいないのか、これは完全な強盗だ。

停学は免れないだろう。


そして、指示されるままに制服を脱ぎ裸でもう一人の横に座らされる。

しかし、これを訴えれば目の前の不良は終わりだ。

しかもここまでやられたんだ。

仕返ししてもこの状況なら正当防衛が成立するだろう。

その時、また誰かがトイレに入ってきた。

不良は同じようにドア影から入ったそいつの肩に腕を回す。


「うぁぁぁぁぁぁ!!」


金を巻き上げようとするその時を狙って俺は駆け出し不良にタックルを仕掛ける!

後ろの壁に叩き付けて殴ろうと思ったところで不良に殴り返されてトイレに倒れる俺。

不良に喧嘩で勝てるわけが無かった。

そして、倒れた俺を蹴り出す不良。


「てめっ!ふざけんなよ!糞が!死ねっ!」


腹や顔を何度も蹴られる俺を見てトイレに入ってきた人は一目散に逃げていった。

あぁ…バカな事したな…

そう考えた時であった。


「がぁ?!」


不良の声と共に蹴りが止まった。

そして、見上げてそれを知る…

裸にされてたもう一人が不良の背中を割れた蛍光灯で刺していたのだ。


「う、うわわ…うわぁぁぁぁ!!!」


これまで他人を傷付けた事なんて殆ど無かった彼は手に伝わる感触に悲鳴をあげ後ずさる。

割れた蛍光灯を素手で掴んだ時に切れたのだろうが掌から血が滴っていた。

だが興奮状態にある彼は痛みをまるで感じておらず後ろへ自らが行った事を目に焼き付けながら下がる。

そして、足元に倒れていた清掃道具に足を取られてしまう。


「あっ?!」


それが彼の最後の言葉となった。

後ろに倒れた彼は開いた個室の角に後頭部をぶつけてそのまま動かなくなった。

開いたままになった目が既に事切れているのを表すのは本当なのだと非現実的な光景に固まった。

そして、右手に痛みが走った。


「お、お前…い、医者だ…救急車を…」


背中から刺された不良が俺の右手を掴んで握りしめる。

こいつも必死なのだろう、汗の異常な量から内臓まで届いていると分かる様子に、怖くなった俺はその手を振り払い不良を突き飛ばした。


「あっ?!」


人は死ぬ時に同じ言葉を吐くものなんだなと後ろに倒れる不良を見つめる…

何故か分からないがこの時既に不良がどうなるのか分かっていたのだ。

そして、不良は背中から後ろに倒れた。

割れた蛍光灯が内臓まで刺さったままである。


「ぶふぅ?!」


一体どんな酷いことになっているのか分からないが不良は暫く死にかけの虫のようにもがき苦しみ…そして、動かなくなった。









目を開くとそこは工場の中であった。

見える…

左目が見える?!

さっき見たのは夢だったのか誰かに抉り取られた筈の左目が見えることに安堵したのも束の間、今度は左手が机の上に固定されているのに気が付いた。


「い、いやだ!?なんなんだこれは?!」


手首を固定されてるだけでなく座ってる椅子に体も固定されているのに気が付き血の気が引くのを感じた。


「お目覚めかなぁ?」


すぐ後ろでその声は聞こえた。

まるで機械で出したような響くその声はサーカスのピエロを想像させる。

だがその人物の顔も見る事が出来ず冷や汗が大量に流れ出る。


「おっと、突然だけどあまり暴れないほうがいいよ。目の前にある桶に入った液体が見えるかい?」


そう言われ前を見ると拘束されて無い右手を伸ばせば手が届きそうな場所に桶が一つ置いてあり透明の液体が入っていた。


「その中に入っているのは塩酸さ、そしてその下の台の手前側は氷で出来ている・・・あと1時間もしないうちに凍りは解けて塩酸が君に流れ込むって寸法さ」


あの位置から流れ出れば体には掛からなくても下半身に掛かる・・・

そんな事になれば・・・


「助かりたいだろ?そこで一つゲームをしようじゃないか、君の手足を拘束している器具の鍵がココにある」


顔の横からヌッと差し出されたその鍵を横目で見詰める。

奪い取れれば良いのだが後ろでイキナリ後頭部を撲殺されるかもしれない・・・

その恐怖が体を動かさなかった。


「今からこの鍵をそこの桶の中へ放り込むからそれを拾って自分で開錠すれば君は右手に大火傷を負うけど助かるってゲームさ、どうだい?とってもスリリングでエキサイティングで最高だろ?」


吐き気が溢れる。

だがこのままだと間違い無くもっと酷い目に遭う。

覚悟を決めた俺は頷く。


「そうかい、そうかい、それじゃゲームスタートだ。せいぜい頑張ってくれたまえ」


その言葉と共に桶の中へ鍵が投げ捨てられた。

拘束された左手と両足に力を入れて右手を必死に伸ばす。

一瞬水面に手を入れる時に躊躇したが覚悟を決めた!

じゅわあああああああ


「いぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!」


手が熱い、皮膚が溶けていくのが分かる・・・

叫び声を上げながら溶け出す指を必死に伸ばして鍵を・・・掴んだ!

一気に手を水面から引き上げた。

既に指が溶けて繋がり甲は骨が見えていた。

だが今ならまだ動かせる・・・

必死に痛みに苦しみながら鍵を左手の手錠の鍵穴に差し込む!


「ま・・・・まわれええええええ!!!」


だが鍵は回る事無く右手の肉が溶けて落ちた。

無くなった筈の右手だった場所に激痛が絶え間なく襲い掛かり絶望に顔を歪める。


「あぁ、これは失敗だね・・・そうかそうか、塩酸で鍵が溶けちゃって開かなくなっちゃったんだねごめんごめん」


後ろでそんな声が聞こえた。

既に右手は手首近くまで溶けて無くなっており血液が滲み出ていた。


「そっか、次からは気をつけないとなぁ~参考になったよ。それじゃグッドラック」


その言葉を残して後ろに居た誰かは踵を返して去っていく・・・

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔のまま痛みに耐えていた俺は最後の抵抗に出た。

目の前の桶がこっちに倒れてくる前に解けた右腕で向こうへ落とすのだ!

激痛が走り続ける右手で触れるしかないと言う現実に口から漏れる悲鳴・・・

だがそうしなければ自分はもっと酷い目に遭うと分かっているので必死に右手を伸ばした!

だが・・・

桶の奥側が台に固定されており痛みに耐えながら押し付けた右手は無常にも意味を成さなかった。


「あぁ・・・あぁ・・・・」


絶望に染まった俺の見ている前でゆっくりと桶の下の氷が溶けてゆっくりと桶はこっちへ傾いていく・・・

右手で支えようにも既に手首すらもなくなっておりまともに押さえる事も出来ない・・・

それでも必死に右手で抵抗を試みたが解けた肉が滑り桶の中身が遂にこっちへ毀れだす。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


液体は太股に掛かりそこから俺の下半身を溶かしていく・・・

痛みが激しすぎてわけが分からなくなった俺は声が枯れるまで絶叫を繰り返す。


ミチ・・・


それはとても小さな音であった。

左手を拘束していた金具がゆっくりと左手首を締め付けていたのだ。

だが下半身が溶ける痛みでそれどころではない俺は全く気付かない。


ミチミチミチ・・・


徐々に加速度的に締め付ける力が強くなっていく拘束具。

そして・・・


べきぐちょばきばきぶちっ・・・・


俺の気付かないまま左手は締め潰されてしまった。

もう俺を拘束するものは何も無い。

逃げようと思えば地面を這いずって逃げる事も出来るだろう。

だが足元に毀れている塩酸の上を這わなければならない事を考えなければ・・・

















「どうでしょうか?未成年には刺激が強すぎるのではないでしょうか?」

「だが少年法に守られているからと他人に非道な事を行なった少年を更生させるにはこれくらい必要だろう」


そこは少年院の更正部屋であった。

近年少年法のせいで未成年による凶悪犯罪が多発しており頭を悩ませた政府は未成年犯罪者に更正する為のシステムを開発していた。

ゲームに使われる疑似体験マシーン『VR』を使って自身が地獄の様な体験をする事で他人の痛みを知り更正を促すと言う目的で現在試験的にそれが行なわれていた。


「しかし大丈夫でしょうか?この少年既に髪が真っ白になってますよ?」

「上からの指示だから仕方ないだろう、もう直ぐ終わりだからしっかりレポート頼むぞ」

「分かりました」


この実験は殆どの試験更正を受けた未成年が廃人となった事で直ぐに中止されるのだがそれまでに実験体として使われた少年の数は計り知れない・・・

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