推理ごっこ

いつき

第1話

「推理ごっこ?」


私の言葉に、かばんが聞き返す。


「そう、模擬的に事件を起こして、それを解決する遊びだよ」


ロッジのリビングに集まっているのは、かばん、サーバル、アライさん、フェネック、アミメキリン、そして私の六人だ。

これだけいれば、人数は申し分ない。


「まず、犯人をひとり、くじで決める。その犯人は、他の誰かひとりを殺す。生き残った人は、誰が犯人か探るんだ」


ハカセたちに聞いてやってみたかった遊びだが、アリツさんとアミメキリンの三人では、人数が少なすぎて成立しない。

かばんたち四人がいるおかげで、今日はこの遊びをすることができそうだ。


「ええ!? 殺すのはいけないのだ!」

「アラーイさーん、これは遊びだよー」


「はいはい! 私犯人やりたい!」

「サーバルちゃん、くじ引きだよ」

「うみゃあ……」


残念がるサーバルをおいて、かばんは私に言った。


「オオカミさん、それってこのリビングでやるんですか?」

「そうだね」

「あの、ひとつ試してみたいことがあるんですけど」


かばんは頭のいいフレンズだから、改善点にすぐ気がつく。

与えられたものをそのまま使うしかない私たちと違って、かばんは何もないところから新しいものを考え出せる。

それは、漫画を描くことにも近い行為だが、元々持っている発想力で到底敵わない。

今度もきっと、面白いことを言うのだろう。


「せっかくですから、このロッジを使って推理ごっこをやりましょうよ」


みんなが困惑の表情を浮かべる中、フェネックだけが察したように言った。


「ロッジを舞台にして、実際に事件を起こすんだねー?」

「はい。みんな普段通りに生活して、犯人役の人は、どこかのタイミングでひとり被害者を指名します。でもこれだとテーブルの上でやるのと変わらないので、犯人は殺害方法のトリックを考えることにしましょう。ロッジにある道具を使って、仕掛けを作って、ひとり殺します。その遺体を誰かが発見したら、現場の検証を全員で行って、そのあと推理や話し合いをしましょう」


なかなか本格的じゃないか。

しかし、それだと犯人側の数的不利が出てくる。


「かばん、それならひとつ付け足したい。探偵役、というものを決めてはどうだろう。多数決での投票ではなく、犯人の指名は探偵役が行う。それなら、犯人はみんなに紛れて探偵役を説得して他の人間を指名させることができる。公平かどうかはわからないが、これならできることの幅が増えるだろう」

「いいですね! そうしましょう」


わいわいと盛り上がっていると、アミメキリンが聞いた。


「探偵役が殺されたらどうするの?」

「公表して、探偵は殺してはいけないことにしましょう」


なるほど、と相槌をうつ。


「なんだかルールが難しいのだ……」

「かばんちゃん、私もよくわかんないや」


アライさんとサーバルには複雑すぎたか。

かばんがもう一度、と説明を始めた。


「では、基本的な流れをまとめましょう。まず、くじ引きで探偵と犯人を決める。そしたらみんなロッジで普段通りに生活して、好きなタイミングで犯人はひとり殺害する。遺体を発見した人は、大きな声でみんなを呼ぶ。みんなそろったら、現場の捜査をする。一通り終わったら、またここに戻ってきて、話し合いをしたあと、探偵は犯人を指名する。これでいいですね? 真犯人を当てられたら、みんなの勝ち。外したら負けです」

「うーん、まだよくわかんないけど、やってみようよ!」

「帽子泥棒を見つけたアライさんの手にかかれば、犯人を見つけることなんて簡単なのだ」

「あれは勘違いだったけどねー」


かばんの作ったルールに、異論はない。

上手くまとめてくれた。

やけに大人しいアミメキリンが気になるが、どう立ち回ろうか考えているのだろうか。

ともかく、面白くなってきた。


私は六つのくじを作って、みんなに引いてもらった。

みんな後ろを向いてこっそりとたたまれた紙を開く。

緊張感のある空気が流れる中、アミメキリンの声が響いた。


「あーっはっはっは! 私が名探偵よ!」


おそらくこのなかで一番探偵をやりたかったであろう彼女は上機嫌だ。


「名探偵かどうかはおいておくとして、探偵はアミメキリンさんですね。では、決めた通り、彼女以外の誰かが被害者をお願いします」


かばんがそう言って、それから私たちはそれぞれバラバラにロッジの中に散った。

私は『みはらし』で座って、外を眺めていた。

閉鎖的な空間で犯罪に巻き込まれる一般人の気持ちを味わうため企画した今回の推理ごっこだったが、かばんのおかげで想定以上の臨場感がある。


私は犯人ではない。

だが、私が犯人なら残られると厄介な相手から狙うだろう。

かばんかフェネックか。

残ってもらえると心強いが、さて、どうなるか。


しばらくすると、アライさんの声が聞こえた。

みんなと別れてから、短くない時間が経った。

犯人も充分に準備を終えているだろう。

私も腰をあげて声のする方へ向かった。

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