塔の中で

@migomo

第1話

「ローザ、ローザ、ただいま」

「おかえりなさいお母さん」

たくさんの薬草が入った籠をローザの母カリナはテーブルに置いた。

カリナは月に数回、他の領土に薬草を採取しにいくことがある。

もう慣れたものだとカリナは言うが、半日以上かかるその作業は負担が大きく、疲労するようで、いつも疲れた顔をして帰ってくる。

ローザも自分の仕事が無いときは、カリナを手伝うことがある。

しかし、今回はいつもと違って、疲れた顔をせず、どこか嬉しそうな表情をしている。

「ローザ、あなたにいい話があるの」

「なに?お母さん」

カリナはにっこりと笑い、ローザに近寄る。

いつにも増して楽しそうなカリナを見て、ローザは彼女がどんな話をしてくれるのか心待ちにしていた。

「北の領土のハーロルトがあなたとデートしたいそうよ」

カリナは満面の笑みだが、ローザはその話を理解することができず、茫然とした。

「ハーロルトって隣に住んでた……?」

ローザがそう聞くと、カリナはええ。と大きく頷いた。

「あなたが小さいころによく遊んでくれたハーロルトよ。母さん、今日は北の領土に行ってきたんだけど、帰りにハーロルトに会ってね。ローザの話をしたら久しぶりにローザに会いたいって言ってたのよ」

デートよデート。とカリナはまるで自分が言われたかのように嬉しそうな顔をする。

ハーロルトはローザよりも5歳上で、昔は家が隣同士でよく遊んでもらっていた。

栗色の髪とそれと同じ色をした優しげな瞳。好青年とは彼を指すのか、という程爽やかで優しい青年だった。彼が北の領土に行ってしまってから、かれこれ3年も会っていない。

「なんだか久しぶりに会うのはとても緊張する……」

ハーロルトに会うのは嬉しいが、何分突然すぎる話だ。

まさか、隣に住んでいた優しいお兄さんにまた会うことになるなんて予想もしていなかったのだ。

「彼から手紙を受け取っているわ」

カリナはローザに白い封筒を差し出した。ローザはそれを受け取り、封を開ける。

「親愛なるローザ

久しぶりだね。元気にしているかい?

君に手紙を出そうと思っていたのに、仕事が立て込んでいて中々書くことができなかったよ。君に見せたいものがあるんだ、良かったら4月16日に北の領土に来てくれないかい?もちろん君のことを迎えに行くよ。返事を待っています。

ハーロルト」

手紙の内容は簡素なものであったが、ハーロルトの優しさに包まれたものだとローザは思った。

「偶然ハーロルトが手紙を出そうとしていた時に母さんが通りかかったのよ。母さんのおかげで早く手紙を受け取れたわね」

聞けば、ハーロルトはローザに手紙を出すつもりで、ポストに向かっている途中にカリナに会ったらしい。

「ちょうどこの日は一日空いているわ」

今から約2週間後の4月16日。久しぶりにハーロルトと会うのは緊張するが、3年ぶりに会うことと、見せたいものの正体がなんなのか期待に胸が膨らんだ。

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