ゼロイチ

@kuroto28

第1話 交錯する日常


その日は、誕生日だった。


「だーめ、絶対にダメ」

「えー、絶対アイスケーキがいいよ」

夕日が差す横断歩道の前で、少年は制服を着た少女と言い合っていた。

「アイスケーキはおなか壊すでしょ。それに皆川ちゃんと海が待ってるんだし早く買って帰るよ」

「もしかして姉ちゃん、太るからじゃないの」

「違う。泉が食べ過ぎて、おなか壊すからよ」

「うっそだー」

「いい加減にしないと買わないわよ。まったくもう」

「はーい」

少女は少年をいいなだめ、

「ほら、行くよ」

そう言って手を差し伸べた。

少年は言われるがまま、少女と手をつなごうとした時、

「イズミっ」

いきなり少女が少年を突き飛ばし、同時にけたたましいクラクションの音が鳴り響く。


『ぐしゃり』と肉のつぶれるような音が少年の耳でこだました。


「いってぇ」

数十秒の間、自分が意識を失っていたことに気づいた彼は、ゆっくりとまぶたを開いた。すると、眼前には排気ガスで充満する道路が見えた。軽自動車がガードレールをへこませて沢山の煙を吹き、周囲は騒然として遠まきに悲鳴に似た叫び声が聞こえる。

少年は何が起こったのかを確認するために、身を起こして視界の悪い周囲を懸命に見渡した。

(怖い)

その感情がその時の少年を支配していた。

「…よかった」

声が聞こえた。弱弱しく蚊の鳴くような声だったが、少年はそのかすれた声に聞き覚えがあった。

「…姉ちゃん?」

少年が振り返ろうとしたとき、彼の意識は眩い光で呼び覚まされた。

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