泡沫トラベルレコード

@Umica0

第1話 プロローグ

魔法王国【フィスティーン】。

そこでは常に、大勢の人々が行き交い、たいそうなにぎやかさを醸し出している。

善もあれば悪もある世界だったが、まだそれを知らない無垢な少年少女がたくさんいる世界_。


その中のラトリ=ヒューリングも、平和な毎日を送っていた__ものの。

実のところ、そんなに平和でもない。


「あれえぇ__!?僕宿題どこやったっけ!?」


「知らないわよ!もう、ロゼッタちゃん待ってるんだから早くしなさいって!!」


「えええ…ないよぉ…ぐすっ…どうしよう…昨日あんなに一生懸命やったのに…先生にまた怒られちゃうよ…」



「らとりいいいいい___!!早くしなさいよぉ!!あたしまで遅刻するじゃないの!!」



幼馴染・ロゼッタ=チェリーズの叫びが聞こえてくる。

正論だ。

だが。


「ひいい…ごめんなさいごめんなさい…でも宿題なくしたよぉ…あああ…」


「ラトリ!!早く行きなさい!!」


「うう…ひっく…はぁい…」


泣きそうになりながらあたふたと靴を履き、正面玄関を開けると。

綺麗に整えられたオレンジ色の髪をした女の子が、立ちかまえていた。

いつもの最初の一言。


「おっそい!!」


あまりにものぶっきらぼうさに、なおさら落ち込む。

だがこんなものでいちいちしょげていたら、僕はこの子の隣にはいられない。


「なんなのまったくぅ!次こそは置いてくわよ!今日は宿題を失くした!昨日は鍵を失くした!一昨日は寝坊した!一昨昨日は歯磨きの途中!?笑わせんじゃないわよ!?」


「うう…はい…すいません…」


僕は塩をかけられたナメクジのように、どんどん小さくなっていく。

それを見たロゼッタはため息をついた。

僕の頭にポンッと片手を乗せ、通りすがりに言う。


「ま、別にいいんだけど。もう慣れたしね!これがラトリよね!」


若干自分に言い聞かせているようにも聞こえるが、まあ良しとしよう。

なんだかんだ言って、彼女は僕の隣にいてくれるのだ。

朝も幼馴染として待っていてくれるのだ。

まあ、遅くなれば怒鳴られはするが(ちなみに怒られ記録はついに一週間続いてしまった)。

でも僕は、そんなロゼッタが決して嫌いではない。


「はい、さあ、走る!先行くわよー!!」


「ま、待ってよロゼぇ__!!」


ぜえぜえと彼女の後姿を追いかけながら、アランベル魔法学園に入っていく。

そこで、何を言われるのか。


僕たちはまだ知るすべもなかった。

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