第72話 小話4終話 宴のあとは

「今年も無事に終わりそうですね」

 鈴懸台先輩がそうつぶやく。


 学園祭最終日の日曜日午後5時。

 既にあたりは暗くなり始めている。

 あと1時間で学園祭は終了だ。


「大きな事故も無かったし怪我人もいない。大学の方でアル中1人出たみたいだけど搬送されて無事。まあ問題なしかな」

「天気にも恵まれたしね」


 例年だと1~2回はスコールのような雨に見舞われる。

 でも今年はずっと晴れていた。


「これが終われば来年度の予算折衝やって、それでこの体制も解散ね」


「先輩方は来年は学生会に残らないんですか」

 3人共首を横に振る。


「卒研も大学の編入試験もありますしね」

「私も専攻科に行くつもりだから試験勉強しなけりゃな」

「私も魔法技術大学となりの編入試験受けるからね。無理かな」


「なら、学生会はどうなるんですか」

 香緒里ちゃんが尋ねる。


「12月に選挙なんだけど、ここ数年希望者がいないから自薦なり先生方による推薦ね。私達の場合は去年の役員のうち、3年生だった私達がそのままスライド式に推薦されたけれど」


 確かに選挙が行われた憶えはない。

 由香里姉が去年は副会長で会長にスライドしたのも本当だ。

 でもその話が本当なら、面倒な事になるかもしれない。


「まさか新3年生や新2年生に役職を振ったり推薦したりする事は無いですよね」


 悪いが俺はそういう役はやりたくない。

 というか対人関連は大の苦手だ。

 ここの人間相手にはまあ慣れたから何とか普通に話せるけれど、基本的に俺は人見知りするしあがり症なのだ。


「わからないわよ。特に修は学内では有名人だし」

「それに工房の件もありますし、諦めて役員をやった方が宜しいのではないですか」


 その件もあった。

 俺の工房は本来は学生会の所有物。

 今は香緒里ちゃんのばね工房も兼ねているけれど、あれが取られると俺の工作環境が一気に後退してしまう。

 とすると最低でも香緒里ちゃんには学生会幹部に残って貰う必要があるけれど、香緒里ちゃん一人で残すのは何か申し訳ない。


「先のことは考えてもしょうがないんじゃないか。状況が変わるかもしれないし」

 という鈴懸台先輩の助言に従って、来期学生会幹部の件は脳裏から追いやろう。


「それより、そろそろ花火が上がりますわ」


 この島は本土より天体の時間が30分近く早く、その分夜が早く訪れる。

 なので11月の午後6時はもう花火にちょうどいい塩梅の空。


 と、見る間に光の玉が下から登っていき、空の一点で球状に弾けた。

 遅れてくる音と広がる光の輪。


「たーまやー」

「かーぎやー」

 窓の外で花火が鳴り響く。

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