第67話 小話4の6 別腹とは何ですか

 最後にチーズケーキを食べていた時、学生会室のドアがノックされた。

「はい」


「お届け物です」

 聞き覚えのある声がする。

 香緒里ちゃんがドアを開けると、創造製作研究会の玉川先輩が現れた。


「どうしたんですか先輩」


「田奈先生からの差し入れ、だと」

 そう言って俺に向かって出したのは、皿に入ってラップされた少し透明がかった小豆色の塊が2つ。


「特製水羊羹。生物なのでお早めにお召し上がり下さいとのことだ。じゃあな」


 どうもこの部屋は居心地が悪いらしく、玉川先輩は逃げるように去っていった。

 そして俺の前に残された小豆色の塊。


「どうします。今食べたばかりですし、冷蔵庫に入れておきますか」

 便宜上受け取ってしまった俺は皆に尋ねる。


「チイチイ、甘いよ長津田君。甘いものは」

「別腹よ!」

 鈴懸台先輩と由香里姉の声がハモった。


「でもチーズケーキも食べましたよね、今」


 疑問に思う俺に月見野先輩が諭すように言う。

「長津田君。普通の食べ物と甘いものは別腹ですし、洋のデザートと和のデザートも別腹なのですのよ。ですからそれはこのテーブルの中央に置きなさいな」


 俺にその理論は理解できない。

 でも言いたいことはわかった。


 俺はテーブルの中央、さっきまでチーズケーキがあった場所に皿を置く。

 ラップを取って俺の手が皿を離れた瞬間、由香里姉が右手に氷の刃を出現させ、目にも留まらぬ早業で2本の水羊羹を6等分。 

 そしてそのまま一切れを自分の皿に運ぶ。


「いい仕事をしているわ。やっぱり暑い午後には冷たい和のスイーツがよく合うわ」

 確かにここは南の島。

 11月近い今でも気温は25度ある。

 でもチーズケーキのあとに水羊羹、それもでっかい1本を3等分した塊を食べるか普通。


 しかし既に俺以外の皆は自分の皿に水羊羹を運んでいる。

 下手をすると取られてしまいそうなので慌てておれも自分の皿に水羊羹を運んだ。


「うん、いける。久しぶりに和菓子を食べたけれどやっぱりいいね」

「さっきあんみつを食べたけれど、これはこれで美味しいです」


 どうも俺以外は和菓子と洋菓子別腹派のようだ。


「確かにこれは良いものですわね。田奈先生も空中スクーターは別として、人間大砲くらいは許してあげてもいいかもしれませんわ」

 と月見野先輩。


「えっ、でも田奈先生肋骨にひびが入ったんじゃ」

「あれは脅しですわ。そうでもしないと無茶されるでしょ」

 月見野先輩はそう言ってウィンクする。


 やっぱり月見野先輩、怖いな。

 そう思いつつ俺は他の皆様方を見習い水羊羹に手をつける。

 上品で自然なあんこの甘みとつるりとした舌触り。

 ついつい抵抗なく食べきってしまった。


 うん、これは確かに別腹だ。

 俺も納得してしまった。

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