第64話 小話4の3 事故発生急行せよ!

 あまりに甘味が美味すぎて動けなくなった頃。


「事務局三茶より学生会宛、総合グラウンド北西で事故。怪我人及び施設損壊あり」

 片耳に突っ込んでいたイヤホンから情報が入った。


「学生会薊野了解。至急搬送車と要員出します。学生会薊野から月見野書記、並びに長津田補佐。至急グラウンド北西に向かってください。回信を乞います。月見野書記どうぞ」

「月見野了解」

「長津田補佐どうぞ」

「長津田了解」


 何か面倒な事が起きたようだ。


「ちょっと行ってくる」

「私も行きます」

「私もす」

 幸いお盆の上の甘味は完食している。


「ご馳走様でした。相変わらず美味かったです」


「学生会の関係か、大変だな」

 江田先輩、状況をわかってくれたらしい。


「今年もどら焼き作るなら予約お願いします。10個。夕方取りに来ます」

「OKEY、取っとくよ」

「お願いします!」

 俺達3人は創造製作研究会の休憩室を出る。


 混んでいる校舎内を避け中庭を突っ切ってグラウンド中央を横切る。

 その頃には既に現場が見えていた。


 前部が潰れた飛行スクーター。

 穴が空いたグランド境界のフェンス。

 座り込んで頭をかきながら事務局員の事情聴取に応じている中年男性。

 事故と言っても大したことは無さそうだ。

 そしてその中年男性は見覚えある人物だ。


「田奈先生、年甲斐もなく暴走しないで下さいよ。」

 学園祭委員による事情聴取が一息ついたようなので、俺は当事者に声をかける。


「いやあ、教官対抗飛行エアスクーターレースの練習してたら横風きちゃってな。それでちょうど長津田が来たのでお願いがあるんだが」

「何ですか」

「ちょっと魔法で、その塀とスクーターを直して証拠隠滅していいか。ちょっと今の学生会幹部連中は苦手でな。出来れば顔をあわせたくな……」


「もう遅いようです」

 俺は先生にそう宣告する。

 野次馬にまぎれて月見野先輩がこっちを伺っていた。


「裏取引は禁止ですわ、田奈先生」

 ささっと人垣が割れ、間を月見野先輩が歩いてくる。

 これがモーゼ現象という奴か。

 見物人にも深淵の監査様は恐れられているようだ。


「はは、つい担当の学生だったもんでな」

 田奈先生はそう言って頭をかこうと右腕を上げかけ、しかめっ面をする。


「動かないで下さいな。肋骨にひびが入っておりますよ」

「はは、どうりで痛むと」


「動かない!」

 月見野先輩の一喝で田奈先生の動きが止まる。

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