第54話 小話3の1 台風の午後の昼下がり
ある金曜日。
外は暴風雨。
そろそろ今年最後だろう台風が通過中だ。
そんな中でも授業は行われる。
事実上の全寮制で教員も近くに居住しているからこそ出来る荒業だ。
でも、いくら遊ぶところが何もない辺境の魔法特区の離島でも。
そんな日はとてもとても暇だ。
そしてその暇さ加減に腐っている女子学生がここにもいた。
「うう、暇だし雨だしつまらないわ……」
「書類仕事も捗りましたし宜しいのではないですか」
「でも暇だよな、この雨じゃ露天風呂も無理だろうし」
学生会幹部3名がそんな事を言いながら窓の外を見る。
外は横殴りの雨。
窓サッシに叩きつけるような風。
工房へ行くのさえ全身ずぶ濡れを覚悟しなければならない。
俺も香緒里ちゃんもジェニーも学生会室で書類仕事の手伝いをしている。
ただこういう日に限って書類等の量が少ない。
なので書類も珍しく午後4時過ぎには片付いてしまった。
今は皆ネットサーフィンだの読書だので暇つぶしをしている。
俺が今作っているのは高専ロボコン参考出場用マシンの制御用プログラム。
うちの高専はロボコンで過去に魔力使用ロボットで連続優勝して以来、大会出場権を剥奪されてしまった。
代わりに他の高専側の代表ロボットと順位なし参考試合をすることになっている。
大体優勝校のロボットと戦うことになるのだが、戦績は今のところ6勝1敗と我が校が圧倒中。
こう勝ちが続くと面白くない。
そこで今年、ロボットの動作等に一切魔法を使わないという規定が追加された。
そして学祭中開催の校内大会予選に向け、俺もロボットを製作中という訳だ。
今日も本当なら工房でロボット本体を制作している予定だった。
でもこの天気じゃ工房へさえ濡れずには行けない。
「うう、せめて露天風呂にでも入れれば、この鬱憤もすこしは晴れるのに」
「これじゃバスもまっすぐ飛べませんよ。下手すれば流されて行方不明です」
俺はそう言って釘をさしておく。
本音は露天風呂がなくなってほっとしているのだが。
工房へ行けないのと相殺しても露天風呂なしの方が俺にとってはプラスだ。
「どうせ濡れるなら露天風呂入りたいわ」
「だからあそこの現場まで行くのは無理ですって」
俺は断固反対する。
まあ飛行マイクロバスの能力が台風の暴風に勝てないのは事実だが。
「歩いていくのだって無理ですよ。大学のカフェテリアまでなら通路があるから行けます。でもこの暴風雨だとうちの工房へだって辛いですよ」
由香里姉は俺の顔を見て、そして窓の外を見て少し考える。
そして
「なら試してくるわ」
由香里姉はそう言って立ち上がり、何も持たずに学生会室を出ていった。
「よっぽど暇だったのでしょうね」
「今週は会議が多かったからな。ストレスも溜まっているんだろ」
と月見野先輩と鈴懸台先輩。
「それにしても、何処へ行く気すかね」
「お姉のことだから予測しても無駄ですよ。あちこちほっつき歩いてびしょ濡れになって帰ってくるに決まっているです」
誰も動じないし誰も心配しない。
まあ俺も全く心配はしていないけれど。
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