第32話 小話3の7 俺の課題は終わったが

 俺は何とか課題の義足を作り終える事に成功した。


 駆動用のバネの選定にちょっとかかった他は特に問題は無かった。

 歩けるし小走り程度なら走れる。

 例の重力制御も入れたので飛行こそ出来ないが垂直跳びで2メートル以上のジャンプも出来る。

 逆に重量を増して急ブレーキをかけることも可能だ。


 俺としてもほぼ満足が行く出来だったし評価点も高かった。

 でも使っている技術が色々と問題があるという評価もされてしまったので、量産等の話は残念ながら無かった。

 それでもウン10万円でお買上げはしてもらったので俺は一応満足だ。


 あと驚いたのはあの義足使用者の想定は実在の人間だったらしい事。

 お買上げ後、俺の作った義足をそのまま使っているようだ。


 それが発覚したのは数日後に本人から感謝の手紙が来たから。

 どうも凄く喜んでいるらしい。

 残念ながら英語で書かれていたので微妙なニュアンスはわからなかったが。


 さて、問題は香緒里ちゃんの方だ。


 例のバネの反響はなかなかに強烈だったらしい。

 午後半日をかけて作った1000個の先行見本品は。

 物理特性等の調査用10本を除いてほぼ瞬殺で売り切れたようだ。

 そして鳴り響く連絡の電話。

 パンクするEメール。


 学生がパテントを持ち学校で登録したものは学校が連絡先になっている。

 だから連絡等の一次対応は学校の事務局だ。

 お陰で助かったが、香緒里ちゃん個人のメールや連絡先が記載されていれば酷い事になっていただろう。


 それでも製作者に個人的に連絡を取ろうとしたり、あわよくば香緒里ちゃんの身柄そのものを押さえようとする連中も出て来る始末だ。


 中でも何処とは言えないが某国のほぼ国営防衛企業のディレクターを名乗る人物は酷かった。

 既に記載済みの香緒里ちゃんの名前が入った偽造の承諾書を持って、引き抜きというか誘拐を実施しようとしたのだ。


 勿論護衛に由香里姉ら学生会館部3人がいたので誘拐は失敗。

 自称ディレクター含む実行犯6人は足を凍らされて歩けなくされた上、月見野先輩の魔法で気絶させられて、警察署分駐所へと運ばれていった。


 この島には留置場がない。

 留置以上の扱いの犯罪者は基本的に飛行機で本土へ搬送。

 扱いも大体が警視庁本部で担当するらしい。

 彼らも今頃は警視庁本部の留置場へと移送されている事だろう。


 そんな事件もあったおかげで。

 香緒里ちゃんは授業以外の時間は学生会室か工房に引きこもっている。

 それ以外の場所に行くときは由香里姉か鈴懸台先輩が必ず護衛についているという状態。

 そして俺専用工房だった場所も、今では香緒里ちゃんの作業待ちのバネ類が幅を利かせている状態になっていて……


 良いことと言えば確実に貯まっていく香緒里ちゃんの通帳の記載金額と。

 用心の為毎週金曜日夜恒例の露天風呂が中止になったことくらいだ。


「この騒ぎはいつまで続くのでしょうか」

 香緒里ちゃんの表情は暗い。


「うーん、香緒里と同じ魔法が使える第2の人物が出ればね。そうすれば少しは収まると思うけれども」

「物に魔法付与が出来る魔法使いって少ないらしいからなあ」

「でも他に同じ魔法を使える人が出ても、魔法と使い方でパテント取っていますからね。収入が途絶えることはないですわ」


「……もうお金いいです。のんびりしたいです」

 贅沢な台詞だが本心だ。

 それはこの場の皆が知っている。

 しかしその希望が叶えられる日はまだ見えない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る