月明かりの最中
夕星 エリオ
序章・満月の出会い
少女と青年
月明かり以外照らすものがない深い夜。
そんな中、足音をたてずに
だが、動きやすくするためにつくられた和服はどれも一級品で、きれいな桜が描かれている。
「離宮といっても、入るのは実にたやすいものね」
少女はぼそりと、独り言をもらした。
「そこにいるのは誰だ」
気配を感じさせない少女に、一人の青年がバルコニーから問いかけた。
「あら、女に向かって失礼じゃありませんか?
ふっ、と笑いながらバルコニーまで上がってきた少女に、殿下と呼ばれた青年も少し笑いながら答える。
「俺のことを王子と知っていて、こんな夜更けに訪ねてくるのは暗殺者くらいなんでな」
だが、お前は違うな。というように青年は目を細めた。
「そうね、ここに来たのはただの散歩よ。ちょっとパンチのあるね。それに噂で聞いたことがあるだけ。この国には赤い髪にマリンブルーの目をした王子がいるってね」
自身に満ちた凛とした声が、静かに響いた。
「……俺も聞いたことがあるぞ。かの国には、珍しい銀色の髪の変わった姫がいるとな」
そう青年が言い放ったとき、突然強い風が吹いた。
少女の結わいたリボンがとれ、銀色の髪が月明かりに照らされて、キラキラと光った。
「それでは、私を捕まえますか。アレン=エドワード・クリスチフ・アリシア王子」
少し驚いたのか、アレンの目が大きく見開かれる。
少女はさっきとは違い、高い靴音を響かせながらアレンの方へ歩み寄る。
「けれど今夜は満月。月に免じて見逃していただけませんか」
アレンへ抱き付きながら、少女は言った。
「そうだな……それも悪くない」
アレンがそう言った瞬間、ヒュッと音をかすめ、瞬時にアレンの方へ
「甘いですね、殿下。女だからといってなめすぎですよ」
それが自分の剣であることは、明白であった。
「そうか。そういう女もいるのか」
剣を一瞬にしてとり、間をとって王子にむける姫がいたとは。
「ええ。今のご時世、自分で自分の身を守れなくては。でも、時間ね。では…さようなら、殿下」
下へ飛び降りる直前にアレンへ剣を投げた少女は、また足音もたてず颯爽と走っていく。
「殿下、ここでしたか。下で不審者がでたそうなので、早くお戻りになってください」
「ああ、わかった」
従者にそっけなく言葉を返し、アレンは少女の消えた方へ向かってこう言った。
「今度は俺が行く。その時を楽しみにしていろ」
その言葉が本当に言ったのか
フッと笑い、またクロードに見つからないことを祈りながら、少女は走った。
そして満月は、幕をあげるために西へ傾き始めていた。
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