うほうほパラダイス
池田蕉陽
第1話 ゴリラと転校生
転校したこの日、俺は新鮮な校舎や空気、野生の獣、新しいクラスメイトってえ!?獣!?
教室の右端の一番後に座る俺は、高校生生活の不安を少しでも抑えるために深呼吸をすると、俺の鼻の穴を刺激させたのは獣の臭いだった。
この学校、まず一番におかしいと思ったのは隣に学ランを着たゴリラが、あたかも本校の生徒のように授業を受けているからだ。
な、なんでゴリラがいるんだ...?
しかもこの異常な状態に誰も不思議に思っていない様に見える。おかしいのは俺なのだろうか、これが普通なのか?
「えーじゃあこの問題を~杉村、解いてみろ」
数学の問題を書いていたメガネで勤勉そうな教師が、杉村という生徒を当てると「うほっ」の返事と思われる一言を放った後、隣のゴリラが立ち上がった。
杉村ってお前かよ!
俺は頭の中でツッコムと
「うほうほ、うほ~うほっ、うっほぉぉぉぉ~」
うほうほしか言ってないはずの杉村という名のゴリラの解答に理解した教師が
「ふっ、やられたよ杉村、まさかこの問題を解ける奴がいるとは...」
メガネ教師はお手上げポーズをすると、周りのクラスメイトたちは「やっぱり杉村は天才だなぁ~」や「杉村君って本当に頭いいよね~」
などの彼、いやこのゴリラを褒め称える言葉が耳に入ってきた。
いつからゴリラ語は世界共通言語になったんだ...
チャイムの合図で授業が終わり教室が賑合う中、俺はゴリラこと杉村を目だけでガン見していた。ゴリラは表情一つも変えずにずっと1点を見つめている。すると俺の前を通り過ぎて行った蚊が、ゴリラの机にピタっと止まると、気づいた時には机が壊れていた。
え、今一体なにが!?
おそらくだが目にも見えない速さでパンチを食らわし机を壊したのだ。
ゴリラの握力って人間の何10倍もあるって聞いたことあるけど、まさかこれほどとは...
俺が唖然としていると、いつの間にかゴリラにクラスメイトの女子が寄り添っていた。俺から見たら彼女は、動物園の檻の中にいるゴリラを見ている様だった。
「ちょっとまたやっちゃったの~!?これで6回目だよ!?」
「うほ~...」
ゴリラはまるで飼い主に叱られている様な申し訳なさそうな顔で頭を下げている。
「しょうがないなぁ~、私新しい机持ってきてあげるからそれ捨てといてよね?」
「うほっうほ!」
「いえいえ、どういたしまして」
人間とゴリラの会話が終わると各々が作業についた。
ちゃ、ちゃんと会話になってる...
この学校の生徒はみんな彼女のようにゴリラ語を身につけているのだろうか。
俺は気になってしょうがなくなり、前の席に座る女の子にコソコソっと聞いた
「ねぇねぇ、なんでゴリラいんの?しかもみんなゴリラ語を理解しているようだし」
女子は一瞬頭の上に?マークを浮かべたがすぐに理解したようで
「あーあー!そう言えば君転校生だったね、杉村君って人間に育てられたから中身は全く私たちと同じ人間なの、なんでゴリラ語が分かるかっていうと~
ん~...な、なんかいつの間にか分かってたんだよね笑慣れじゃない?」
「そ、そーいうもんなのか」
わからない、だからってなんで人間の学校に入学させたのか、それになんでお前らはそんな自然にいられるのか、わからない。
次の時間は体育で授業内容はドッチボールだった。俺は転校生のせいかあまり狙われなかったのでラッキーと思っていたのだが、それは大きな間違いだった。
数分後、何故こうなったのか分からないが俺はゴリラと向き合っていた。そう俺以外の皆はボールに当たってしまい外野に行ってしまった。それは向こうも同じでゴリラ一匹がコートを占めていた。
ボールは不幸にもムキムキゴリラが持っていた。
「いけぇぇぇぇ!!転校生!!杉村なんかやっちまえぇぇ!!」
や、やばい...もしあいつの高速ストレートがくれば俺は病院送りになるかも知れない。
俺は避けることだけに集中した。
「うほうほっ、うほ~」
何を言ったが分からないがボールを投げるモーションに入った。おそらくお前はもう死んでいる...みたいな決め台詞でも決めたんだろう。
それは一瞬の出来事だった。
俺は呆気にとられて固まってしまった
俺が我に帰ったのは外野にいた歓声と後ろの校舎にめり込むボールを見た時だった。
「でたぁぁぁ!杉村の必殺!レーザービーム!!」
は?レーザービーム?冗談じゃない、病院送りどころじゃない、死んじまう!!
敵チームの外野からゴリラにパスされると再びゴリラはうほうほと訳の分からないことを言っていた。
大丈夫大丈夫、自分を信じろ...あいつがボールを投げるモーションに入った瞬間横に飛び込んだら避けれることは可能だ、うん大丈夫
うほうほっ言ってたゴリラが急に静かになりボールをその場に置いた。
一体今からなにが始まるのかと思ったら外野の連中が
「お、おい...あれってまさか...」
「ああ...あれは百発百中、避けることは不可能な必殺技、その名もビックバン!!」
百発百中!?ビックバンだと!?絶対レーザービームよりやばいだろ!!
ゴリラはボールを置いたあといわゆるゴリラがよくする胸をドラムにして交互に叩いていた
「うほうほうほうほうほっ!」
その衝撃でゴリラを包む体操着がビリビリ破れていく。
それに気のせいか、ゴリラの周りにオーラが集まっている気がした。それが確信に変わった時俺は死を悟った。
「お、おい!転校生がなにかしてるぞ!!なんだあれ!?元気玉か!?」
俺は涙を流しながら両手を空に挙げて天使のお迎えを待っていた。
「うほうほっ?うほ、うっほーうっほー、うっほぉぉぉぉぉ!!」
今まで言葉が分からなかったゴリラ語だったが今だけははっきり分かった
「覚悟はできたか?クソ野郎、ここがお前の墓場だ、死ねぇぇぇぇぇ!」こう聞こえた。
ばいばい...俺を産んでくれたお母さん、お父さん、ポチ...(ペット)
キーンコーンカーンコーン
一瞬天使のお迎えが来た合図だと思ったがそうではなく先生の終わりの合図だった。
「はい!そこまで!9対9で引き分け!」
外野にいた皆は「よっしゃぁぁぁ!よく耐えたぞ転校生!」という叫びが聞こえたが、それすらも耳に入らず俺の頭の中はチャイムの音しか流れてなかった。
た、助かった...
俺がまだ両手を空に挙げているとゴリラが俺のもとにやって来た。
「うほうほうほっ、うほうほうほうほ?」
そう言って手を差し伸ばしてきた。どうやら握手をしたいらしい。俺はそれを拒むほど社交辞令を知らない人間ではないので手を差し伸ばした。そのゴツゴツした手は触ったことのない感触でどこか安心する触り心地だった。
「お、おお、俺の名前は荒木 智也。こちらこそよろしく」
どうやら杉村に好かれたらしい俺はいつの間にか理解できるようになってたようでその返事をすることが出来た。しかし何故理解出来たのか俺には分からない。もしかしたらなにか感情が関係しているのかもしれない。
2人の熱い握手が終わり杉村が懐からなにか取り出すと、それはバナナだった。杉村はバナナの皮をむきそれを1口かじると俺に渡してきた。
「え、遠慮しとくよ」
「.....」
さすがにゴリラと関節キスをするのはゴメンだと思いこの時は謝ったが、後から聞くと、これは杉村の中で友情の証を表すらしい。
うほうほパラダイス 池田蕉陽 @haruya5370
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