本気のあたしを見せてやる⑥ 治療開始


◆ 川波小暮 ◆


「――おい! おいって!」


 ぐいぐいとオレの腕を引っ張っていく暁月は、伊理戸たちが見えなくなってようやく、こっちのほうを振り返った。


「ん? 何?」

「何じゃねーよ! なんだデートって!? 聞いてねーぞ!」

「言ってないもん」


 にひ、と暁月はわざとらしく笑い、


「あれ? 嫌いだったっけ? サプライズ」

「こういうのはサプライズじゃなくて横暴っつーんだよ」


 ったく、この間に東頭が伊理戸に手ぇ出してたらどうすんだよ。今日の伊理戸きょうだいはなんとなくよそよそしい気がするしよ……。


「まあまあ、そんなにカリカリしなさんな。きっかけを作ってあげたんだから」

「はあ? きっかけ?」

「亜霜先輩たちに続いてあたしたちまでデートってなったら、他のみんなも流れに乗りやすいでしょー?」

「…………!」


 まさか、そのためにわざわざデートだなんて言いやがったのか……?

 暁月はぎゅっとオレの腕を抱き締めて、


「ま、あんたとデートしたかったのも本当だけどね」

「……ちょっ――」

「って言ったらどうする?」


 浮き立ちかけた蕁麻疹が、暁月のムカつく笑顔で一気に引いていった。

 って言ったら、って……いや、どっちだよ!?


「大丈夫大丈夫。そんなに心配しなくても、徐々に慣らしていくつもりだからさっ」

「徐々に慣らす、だぁ……?」


 例の、暴露療法とかいうやつか……?

 暁月はオレの疑問には答えず、意味深な笑みだけを湛えている。


「それじゃ、どこ行こっか? せっかくだし、久しぶりのデートを楽しもうよ、川波」


 幼馴染みとしての『こーくん』ではなく、距離を取った『川波』という呼び方に、オレは少しだけ安堵した。

 だが、その安堵は、オレの心の奥底にわだかまる、大きな不安の裏返しだということは、誰に言われるでもなく明白だった。

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