異国情緒のパラレルデート⑧ 幼馴染みがわからない


◆ 川波小暮 ◆


 異人館を一通り回った後、やってきたスタバは、画像で見た通りの異空間だった。

 ただでさえオシャレなスタバを、オシャレな洋館を改装して作ったら、そりゅあオシャレに決まっている。異世界アニメみたいなシャンデリア、窓、暖炉、ランプ――そこここにテーブルが置かれ、お客がコーヒーを嗜んでいる様は、まるで上流階級のサロンにでも入り込んだかのようだった。


 奥にある、ここだけは見慣れたカウンターで注文して、二階に上がる。

 目的地は大きなリビングルームだ。八人掛けの長テーブルが真ん中に置かれ、その奥の壁には黒板ほどもある横長の絵が飾られている。両脇には目線より上まで積まれた洋書の塔。わざとらしいくらいの演出だった。


「お、お洒落です……! お洒落すぎます……!」


 オレたちももちろん感動したが、特に東頭の奴は目をキラキラと輝かせていた。こいつみたいなオタクには、普通のスタバみたいな普通のお洒落空間よりも、こういうフィクションめいた空間のほうが肌に合うのかもしれない。


「ねっ、窓際行こーよ!」

「おー! ソファーの置き方までお洒落……!」


 窓際は扇状に窪んでいて、その形に合わせてソファーと丸テーブルが設置されている。マフィアのボスとかが真ん中に座ってんだよな、こういうの。

 伊理戸が無言で端に座り、すかさず伊理戸さんがその隣に座る。前に比べると積極的になったよな、伊理戸さんも。前は肩を触れ合わせるのすら遠慮してたような感じだったのに、今は睫毛まで見えるような距離から、じっと伊理戸の顔を見つめて話しかけている。

 その結果、定位置を失った東頭が、「えーっと……」と所在なげにしていた。こいつなら、伊理戸きょうだいを詰めさせてまで、伊理戸の隣に座るかもしれねーな……。そう思って声を掛けようとしたが、


「東頭さんはこっち!」


 その前に、暁月の奴が東頭の手を引いて、円弧状に置かれたソファーの真ん中辺りに腰を下ろした。東頭は「あ、はい」と流されて、暁月の右隣に座る。

 オレも伊理戸の反対側――暁月の左隣に座ると、幼馴染みにひっそりと囁いた。


「(宗旨替えか?)」

「(えー? 何が? 友達の幸せを願うのは当然でしょ?)」


 どうにも胡散くせーな。こいつはまだ、伊理戸と東頭をくっつけるのを諦めてねーのかと思ってたが……。

 暁月は横目でオレを見ながら、にんまりと笑う。


「(変なこと気にしてないで、いつも通りデバガメを楽しんでたら? せっかく結女ちゃんたちを二人にしてあげたんだからさ)」


 ……怪しい……。

 伊理戸さんがころころと笑うのが聞こえた。楽しそうに身を乗り出して話す伊理戸さんに対して、伊理戸は相手の顔をまっすぐ見ようとせず、ちらちらと視線を送りながらぶつぶつと話している。今の二人の関係が――互いへのベクトルの向き方がわかるような、もどかしい様子だった。


 なのに、オレは隣を見てしまう。

 クリーム山盛りのフラペチーノを、ストローでチューっと吸っているチビの横顔を。


 小学生の仲が良かった頃も、中学生の付き合っていた頃も、別れて互いを避けていた頃も、和解してまたつるむようになってからも――なんだかんだで、こいつが何を考えて行動しているのかは、なんとなくわかっていたつもりだった。

 だから、初めてかもしれない。

 何を考えているかわからない――と、そう思ったのは。

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